さくら、ひらひら 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「もしもし……?」 おそるおそる声を出す。すると電話口からも、どこか遠慮がちな声が聞こえてきた。 『あ、と……俺だけど。わりぃ、寝てた?』 「ううんっ、ヘーキ! 大丈夫!」 誰も見ていないのに、わざわざ首を振って否定を返す。その様子が伝わったのか、電話越しの声が笑みを含んだように響いた。 『出かけたって成瀬から聞いたからさ。どうだったのかと思って』 「あの、えーと……」 余計な前置きなしに切り出された話題に、わたしは言葉に詰まった。だけど、このまま黙っているわけにもいかない。 「黙って行って、ごめんなさい」 そう言って、向こうには見えてないのに頭を下げた。そして、きっと怒られるだろうなと思いながら曽根の言葉を待つ。 だけど、彼は怒らなかった。そのかわりに、意地悪げな口調で訊ねてくる。 『女同士で、俺らの悪口話してたんだって?』 「何でそれをっ?」 『だから成瀬から聞いたって。……何だ、マジで悪口言ってたのかよ』 「違う違う違う!」 慌てて全否定して――でも、おや? と思う。グチってたんだもんね、わたし達。別に悪口言ってたわけじゃない……って、あれ? 同じことですか、これって。 頭を抱えて悩んでいると、向こうから自嘲するような声音がした。 『ま、言われても仕方ねぇか』 「曽根……?」 いつもと違う雰囲気の声に、急に不安になった。空いてる片手をギュッと握りしめる。次に何を言われるのかと緊張していたら、電話の向こう側に苦笑する気配を感じた。 『ンな声出すなって。別に、怒ってるんじゃねぇし』 「う、ん」 その言葉にぎこちなく頷く。そんなわたしをよそに、彼は話を続けた。 『でさ、こっから本題なんだけど』 「うん」 『明日さあ……』 そこで言い淀んだように、いったん彼の声が途切れた。何だろうと首を傾げる。 そして次に彼が口を開いたとき、わたしはそのままのポーズで固まってしまった。 |