さくら、ひらひら 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 小さい頃から大切で大好きだった人とお別れしたのは、一年生のときの冬のよく晴れた日のことだ。 いわゆる初恋だった。その思いを告げることなく、その人――有(ゆう)ちゃんは交通事故で逝ってしまった。 悲しくてやりきれなかったわたしは誰にも見られないように、校庭の片隅で泣いていた。もう目が溶けてなくなっちゃうんじゃないかっていうくらいの勢いで。 そしてそのとき、はじめて曽根に会ったんだ。 マミーとのキャッチボールの最中に飛んでいったボールを探しに来た彼は、泣いてるわたしを見つけて、ひどく驚いていた。最初は自分たちが使ってたボールが当たったんじゃないかと訝っていたけれど、そうじゃないと分かった彼は、わたしに使い捨てのカイロをくれた。 泣きすぎてヒドイ顔をしたわたしを可哀想に思ったんだろう。とても教室に戻れるような状態ではなかったから。 彼はそれを手渡すと、あとは特別何かを問うこともなく去っていった。わたしも黙って、見送った。 曽根が残してくれた温もりは、凍えてしまったわたしの心に力をくれた。立ち上がって、有ちゃんにお別れを言いに行くための力を。それは何よりの救いになった。 その後、どうしてもお礼が言いたくて探していたとき、野球部の使うグラウンドで彼を見つけた。だけど、そのときは何も言うことができなかった。 そして季節が巡って、二年生になったとき。わたしは曽根とクラスメイトとして再会した。 実際に接した彼は思っていたより口も悪いし、短気な人だったけど。でも、がっかりはしなかった。だって、それ以上に面倒見がよくて優しい人だって知ることができたから。 だから、わたしはどんどん曽根に惹かれていったんだ。そして、好きになった。 だけど、その反面で有ちゃんへの想いを忘れられなかった。何も伝えることができないまま、二度と会えなくなってしまった人。その人のことを忘れるのは、けっして簡単なことではなくて。 曽根のことが好き。だけど、有ちゃんのこともまだ好きだなんていう――いい加減な自分の気持ちに踏ん切りがつかなくて、わたしは曽根から逃げた。怒られて、愛想を尽かされても当然だと思ってた。けど、そんなわたしに彼は言ってくれたんだ。 |