さくら、ひらひら 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「でもさ。それくらい疲れてても、成瀬くんは美希ちゃんと話したかったってことでしょ?」 「それは……」 わたしの言葉に、美希ちゃんが口籠もった。その頬がほんのりと赤く染まっていく。 「う、嬉しいんだけどさ」 もじもじと照れる美希ちゃん。そんな彼女を見ていると、こっちまで顔が緩んでしまう。 (いいなぁ、かわいいなぁ!) 美希ちゃんのほうが背が高いから、実際にやったらバランス悪く見えるだろうけど。何かこう、ギュッとしてあげたくなるような可愛さに、わたしは両手を握りしめた。 「でもさ!」 そうやってわたしが一人で拳を握っていると、美希ちゃんが慌てたように言った。 「曽根くんだって初璃ちゃんのこと、ちゃんと考えてると思うよ!」 「でも、早く帰れって……」 「それは心配してるからだよー。曽根くんと初璃ちゃん、家が遠いんでしょ?」 「うん……」 そしてわたしは、送ってくれるという曽根の申し出を断り続けている。だって、ホントに離れてるから。練習後にそんなことしてもらうの、悪いんだもん。 今度はわたしが口籠もる番。俯きがちになって唸っていると、美希ちゃんが生真面目な表情でこちらを覗きこんできた。 「……信じられない?」 問われて、一瞬身体を強ばらせて――だけど、すぐさま首を横に振った。 「それはないよ」 きっぱりと言い切ったわたしに、美希ちゃんが安心したように微笑む。 そう――それはない。わたしは曽根が好きだし、曽根も同じ気持ちでいてくれてるのも、ちゃんと分かってる。 だって、そうじゃなかったら――。 (……今日わたし、ここに来れなかったもん。きっと) しっかりと顔を上げて、周囲を見回す。 楽しげに行き交う人の群れも、出店から漂ういい匂いも。そして、咲き誇る桜の花も。 すべてが思い起こさせる。幼い頃、大切な人と過ごした記憶。 一年前、それはただただ悲しいだけのものだったけれど。 それを優しいものに変えてくれたのは。 (曽根のおかげなんだから) 胸中でそっと呟いて、わたしは軽く目を伏せた――。 * * * |