思うより、ずっと 6
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「正直恋愛対象として見たことはないから今すぐ付き合えって言われても、それはできない。お前がお試しでどうしてもって言うなら、考えるけど」

 瀬戸はぶんぶんと首を横に振った。その反応に俺は内心、ほっとする。

 中途半端な気持ちでは嫌だ。少なくとも俺にとって瀬戸は、ハンパな気持ちで向き合っていいような軽い人間ではないから。

 そのことだけは、はっきりとわかってる。

「だからって、これでお前と気まずくなったりすんのは嫌なんだ」

 ムシのいいことを言っている自覚はあった。それでも瀬戸は頷きながら聞いてくれる。

「ちゃんと考えたい。時間が欲しい」

 瀬戸と正面から向かい合うには、まだ何か足りない気がする。そう思えるうちはまだ付き合うとか、俺には無理なんだと思う。

「駄目、か?」

 俺の正直な気持ち。それはコイツにとってはホント身勝手な考えだろう。

 瀬戸は顔を赤らめたまま、少し視線を落とす。俺の言葉に呆れているのか、怒っているのか。

 再び沈黙がこの場を支配する。そしてその重苦しさに耐えかねて、俺は思わず唸った。

「だー―――っ!」

「ぎゃあっ!」

 瀬戸が驚いて奇声をあげる。悲鳴じゃない、奇声だ。

「お前なあ!」

「はいっ!」

「だいたい迷惑だったら、もっと早くに引導渡してるってんだよ! お前が聞きたくなかろうが何だろうが!」

 俺は別に優しくなんてないんだ。基本自分勝手で俺様な人間なんだ。それはコイツだってよく知っているはずだ。

「どうでもいいヤツのために、泣かせないようになんて気ぃ使わねーよっ!」

「も……いい」

 何かがキレたように言い切った俺に、瀬戸が耳まで真っ赤になって待ったをかけた。そこで俺はようやく我に返る。

「とても、よく、わかり、ました」

 さっき以上にたどたどしく、瀬戸が言う。そして笑った。

「ありがとう」

「――別にっ」

 いつものへにゃりとした力の抜けたものとは違う瀬戸の笑顔に、俺は言葉に詰まる。そんな俺を見て、瀬戸は声をあげて笑いだした。

「ンだよっ」

「曽根、いっぱい考えてくれてたんだね……それが嬉しくて」

 だから我慢できないんだと、瀬戸は満面の笑みを浮かべる。

 直視できない、眩しい表情。

 俺は赤くなりそうな顔をそこから背け、ごまかすように音をたてて自分の席へと向かった。

「……プリント、プリント!」

 その科白に、瀬戸は更に笑い声を大きくした。

「曽根が照れてるー」

「うるせー!」

 見回りの先生に教室を追い出されるまで、そんなやり取りが続いて。やがて、瀬戸はぽつりと言った。

「じゃあ、待ってるね」

「……おう」

 ぶっきらぼうに、だけど彼女に伝わるように俺は応えた。



 ――ホントは足りないものなんて、何もなかった。そのことに俺が気がつくのは、もう少し先のこと。



  【続】

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