さくら、ひらひら 3
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 それなのに――。

「ちゃんと分かってるつもりなんだけど、寂しいんだよね。何か」

 忙しくなるのは分かってた。彼らだけじゃない。わたしだって別の意味で、これから慌ただしくなるはずだ。だって、天下の受験生だもん。そのせいで、余計にすれ違ってるんだから。だけど、それは仕方ないことで。

 だけど『仕方ない』って言葉で片付けるには、気持ちが強すぎる。わたしの曽根への気持ちが。そして、それがもし一方通行だったら? って思ったら。

「話したいけど、話せなくなっちゃった」

「初璃ちゃん……」

 美希ちゃんが困ったような顔で、こちらを見てるのが分かった。わたしは黙って俯く。

 頑張ってる曽根を見てると寂しくなる。だって、そういうときの曽根はわたしのことなんて考えてもいないから。でも、そんなのは当たり前のこと。それが許せないなんていうのは、はっきり言ってお門違い。それだって、わかりすぎるくらい分かってるんだ。

「……野球と自分を比べたって、どうしようもないのにね」

 そう言って、わたしは大げさに肩を竦めた。これ以上、深刻になっても美希ちゃんを困らせるだけになってしまうから。

 すっかり重苦しくなった空気を払い落とすように、わたしは意識して笑ってみせた。その努力に気づいてくれたんだろう。美希ちゃんも軽く口元を綻ばせる。そして、今度は彼女が口を開いた。

「初璃ちゃんだけじゃないよ、そう思ってるの」

「え?」

 浮かべた笑みを苦笑に変えて美希ちゃんが言った科白に、わたしはきょとんとした。彼女は、さばさばとした口調で続ける。

「わたしも、やっぱり同じこと考えるもん。成瀬が頑張ってるの、知ってるけどね」


 もっと一緒にいられたらいいのになぁって。


「やっぱり……思う?」

 わたしよりは明るい声で同じことを言う美希ちゃんに、おずおずと訊ねてみた。美希ちゃんは大きく頷く。

「思うよー。じゃなかったら、あんな意地悪な言い方しないもん」

 電話の途中で寝られてしまったと、わざわざ本人の前で拗ねてみせた彼女の姿を思い出す。

「まあ、確かに」

「ちゃんと謝ってくれたから怒ってはないんだけど。でも成瀬、自分の話したいこと話したら寝ちゃうんだもん」

 しかも野球の話だし。

 そうぼやいて肩を落とす美希ちゃん。わたしはこっそりため息をつく。

(わざとじゃないんだろうけどなあ……)

 どちらかと言えば、やっぱり美希ちゃんに共感してしまう。だけど成瀬くんには励ましてもらった恩もある。なので、何とかフォローしようとわたしは口を開いた。


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