さくら、ひらひら 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 成瀬は『どうどう』と俺を押し留める動作をすると、何とも言えない表情で口を開く。 「瀬戸サン、足りないってさ」 「――何が?」 成瀬の言葉の意味が理解できず、俺は首を傾げた。しかしヤツの次の言葉によって、すぐさま赤面するはめになる。 「『曽根が足りない』って」 「――っ!」 「わースゲー」 「相変わらずストレートですこと」 苦笑混じりに言う成瀬に、俺は額を押さえた。あとから哲と藤原の揶揄する声がしたが、いちいち聞き咎めていられない。 (ホントにあいつは……!) 何でそういう恥ずかしいことをヒトに話すんだっての! 怒っちゃいないけど、この恥ずかしさはどうにもならない。俺はここにいない瀬戸に恨み言を言いたい気分になって、がっくりとうなだれる。 「ヒトのいないところで何話してんだよ、お前ら……」 「いや、俺はグチられただけだし」 「だからって、それを今ココで言うなっての」 「えー、いいじゃんいいじゃん」 苦虫を噛み潰した表情ってやつで俺が抗議すると、横から哲が参戦してきた。 「愛されてるねー、タカ」 「やかましい!」 今度こそ俺は躊躇うことなく、哲に鉄拳制裁を加えた。哲は頭を抱えて、その場にうずくまる。 「ひっでぇ! グーで殴ったっ! タカの乱暴者ーっ!」 「てめえがしつこいからだろが!」 「俺はうらやましいなって言ってるだけだって!」 「全っ然、そう聞こえねぇけどなあっ!」 そう言って、俺は両手の拳を哲のこめかみに当てて、グリグリとしてやった。当然、哲は悲鳴をあげてのたうち回る。 「ギ、ギブギブギブギブギブー―っ!」 「ヒトをからかって遊ぼうとすっからだ、この野郎!」 「いい加減にしなさいよっ!」 ぎゃんぎゃんとがなり合う俺と哲。そこに加わる藤原の声。 次の瞬間、俺らは二人揃って頭を抱えてしゃがみこんだ。 「い……ってぇ」 「角、……角が当たっ、」 口々に呻いて、藤原を見上げた。彼女は俺と哲の恨めしげな視線にもまったくたじろぐことなく、仁王像みたいな形相で、こちらを見下ろしていた。 その両手に抱えているのは、凶器として使用された分厚いファイル。 藤原はさっきよりは幾分声をひそめて、それでも噛みつくみたいにして言う。 「……一年生が怯えるって言ってんでしょうがっ」 「お前も十分怖いと思うけど……」 「何か言った、成瀬?」 「いや」 この状況で藤原にツッコミを入れる成瀬は強者だと思うが、やはり見事な返り討ちにあってスゴスゴと引き下がった。 |