さくら、ひらひら 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「怒ってはなかったぜ、別に」 「けど、何も言われてねーし……」 我ながら珍しく口籠もってしまった。ホント、今日は何か調子が出ねえ。どうにもムシャクシャして、それをやり過ごすために俺は大きく息をつく。 すると、横から哲が俺を呼んだ。 「タカさあ」 「あ?」 「瀬戸が先に帰っちゃって寂しいなら、そう言えばー?」 「ンなっ?」 思いもよらないことを言われて、俺は言葉に詰まった。哲はニヤニヤと笑みを浮かべながら、話を続ける。 「そういや最近二人が話してるところ、あんま見ないし。瀬戸が練習観に来ても、早いうちに帰してるしさぁ」 「それはあいつの家の近所にチカンが出たとか言ってたから」 「タカが送ってやればいいじゃん」 「全力で拒否すんだよ、あいつは!」 練習後の俺に送ってもらうことを、瀬戸は付き合い始めのときから拒否してる。さすがに毎日は無理かもしれないけど、俺は別に構わないって言ってるのに、あいつは頑として譲らない。 あんまりしつこく言ってウザがられても嫌だし、俺に負担をかけたくないという瀬戸の気遣いが嬉しかったから、最近はその話はしなくなった。そんなときにああいうハナシを聞いたら、早めの時間に帰すぐらいしか俺に出来ることはないだろう。 だが哲は笑みを深めて、なおも言う。 「でも寂しいんだろー? だから機嫌が悪いんじゃないの?」 「だから別に機嫌は悪くないっつーの! ただ気分が晴れないだけで、」 「あっきれた」 何故か必死に言い募ってる俺の科白を、藤原の声が遮った。目を向ければ、そこには半眼で俺を見る藤原の姿。 「そこまで言ったら、肯定してるのと同じじゃないの」 「だから違うって言ってンだろっ?」 「いやいや違わないでしょー」 「だーっ! 哲っ、てめえは黙ってろ!」 「曽根、カオが赤くなってるわよ」 「てめえらが変なこと、言うからだろっ!」 肩で息をしながら、俺は哲と藤原の最凶コンビを怒鳴りつけた。畜生こいつら、こんなときばっか意気投合しやがって! ギリギリと歯を食いしばって、わなわなと震える拳を抑えつける。耐えろ、俺。今は新入生の目があるんだ。これ以上びびらせたら、新入部員の勧誘に影響が出てしまう。 そうやって俺が必死に自分に言い聞かせていると、再び成瀬から声がかかった。 「あのな、曽根」 「何だよっ?」 またからかわれたら、たまったもんじゃない。だから俺は噛みつくように成瀬に向き直り、ヤツの言葉を待った。 |