さくら、ひらひら 2
しおりを挟むしおりから読む目次へ






 空いてる手で頭を掻きながら、俺は再び藤原を見た。そして無理やり、話を元に戻す。

「で、用事って何だよ?」

「あー、……うん」

 これ以上は訊(き)いても無駄と思ったか。藤原は目を瞬かせてから、手元のファイルを広げた。それを俺と哲が覗き込む。

 そして、そのまま俺たちがアレコレと話をしていると、不意にポンと肩を叩かれた。

「何やってんの」

「お、成瀬」

 ひょっこりと、俺と哲との間から顔を出したのは主将の成瀬だ。成瀬は声をかけてきた哲の顔を見て、俺の顔を見て――それから眉根を寄せる。

「曽根、機嫌悪い?」

「……だんだん悪くなってきた」

 ひっきりなしに同じことを言われて、いよいよホントにイライラしてきた俺は苦々しい口調で応じた。

 不穏な空気を察したのか、哲と成瀬は少し強ばった表情で俺から距離を取る。そんなヤツらを呆れたように眺めて、藤原は腕を組んだ。さすが『女王様』はこの程度のことじゃ動じない。

「情けないわねー」

 彼女はそう言って、深々とため息をついてみせた。そしてふと、辺りを見回し始める。

「そういえば、今日は来ないの? 初璃と美希ちゃん」

 首を傾げながら問われた言葉に、俺は軽く目を瞠った。そして、口元に手を当てる。

(そういや今日……)

 瀬戸と喋ったっけ?

 そんな疑問が頭を掠めて、今度こそ眉間に皺が寄るのが自分でも分かった。

 瀬戸初璃は、同じクラスでいわゆる俺のカノジョという存在だ。多少の揉め事はあったものの、現在もそれなりの付き合いを続けている。

 冬場はシーズンオフだったから、部活もそれほど忙しくなくて。それまでのツケを取り戻すかのように、俺は瀬戸と一緒に過ごすことが多くなった。ところが季節が巡り、春になってみるとその状況は一変する。

(今日はまだ話してないような気が……)

 そうだ、今日は朝のHRで顔を見たきりだった。教室の移動とか実験の当番とかで慌ただしく動いてたもんだから、ほとんど同じ空間にいなかったんじゃないだろうか。帰りは帰りで、ずいぶん早く教室を出ていったようだし。

(これは……あんまりいい傾向じゃねぇよなあ)

 口に当てた手をそのままに、俺は最近の瀬戸の様子を思い返してみる。


- 172 -

[*前] | [次#]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -