思うより、ずっと 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「藤原が呼んでる。さっさと帰るぞ」 「もうそんな時間っ?」 瀬戸が慌てて立ち上がった。その拍子にイスが倒れる。 「何やってんだよ」 「ごめん」 ガタンッという大きな音に思わず眉をひそめて、俺は倒れたイスに手を伸ばした。 同時に伸びてくる、瀬戸の手。 びくんっ。 瀬戸の肩が震えた。 意図せず至近距離に近づいた彼女の顔は、ごまかしようのないほどに赤かった。――夕焼けのせいだなんて言い訳できないくらいに。 何だって、コイツはこうなんだ? 自分から笑って近づいてくるのに。こっちが近寄ると不自然なほどイシキしまくって固まるのに。 それくらい全身で好きだと言っているのに。 どうしてコイツは俺に何も望まないんだ? 俺の答えを訊(き)こうとしないんだよ? 思わず舌打ちしたくなったのを抑えて、俺は無言で身を引いた。すると瀬戸はあからさまに、ほっとして息をつく。 いらいらする。 そう思ったときには、口を開いていた。 「何、怖がってんの」 「曽根……?」 いつもより数段低い声に、瀬戸がぎこちなく視線を上げた。頬の赤みは残ったままだが、表情はかたい。 「何で俺の答え、訊かなくて平気なんだ?」 「っ!」 瀬戸が息を呑んだ。ぎゅっと両手を握りしめて、俯いてしまう。小柄な身体が、更に小さく見える。 別に怯えさせたいわけじゃない。だけど、一度沸き上がってしまった感情を押さえつけるのは無理だった。 「わかんねーよ」 思ったよりも情けない声が教室の中に響いた。 「お前、何考えてんの? 俺にどうしてほしいんだよ」 ずっと訊きたかった問い。 俺はそれを口にして、瀬戸をじっと見た。だけど瀬戸は身動ぎひとつしない。ただ耐えるように、俯いている。 |