だって冬ですから
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(――あ)

 その姿を見て思いついた。もっと簡単に今すぐ、手があったかくなるかもしれない方法。

 だけど。

(イヤがるかなあ……)

 何となく口に出すのが躊躇われる。だって今までしたことないし。曽根はそういうの、好きこのんでやらなさそうだし。

 だいたい、曽根はいつも自転車通学だし。さすがにこれから自転車を押してくのに、お願いするのも気がひける。

(――でもなあ)

 一度気になっちゃうと、もうダメだ。自分の手と彼を見比べて、ため息をつく。

 しかし「いや!」と思い直し、かぶりを振る。曽根は言いたいことは言えって、この間言ってたし。言うだけならタダだし!

(でも断られたらショックかも)

 思考があっちに行ったり、こっちに行ったり。落ち着かない気持ちで空を見たり、曽根を見たり、地面を見たりしていたら。

「おい」

 呆れたような声がかかった。

「何やってんだ?」

 怪しいものでも見るかのような彼の視線。わたしはあわてて首を振る。

「何でもないっ」

「ウソくせー」

 曽根はわたしの科白をばっさり切り捨てた。目を半眼にして、わたしを見下ろす。

「あんだけ怪しげな行動とってて、ンなごまかしが通用するとでも?」

「うぅ……」

 わたしが言葉に詰まって後退ると、彼は『ほら早く言え』とばかりにぴらぴらと片手を振った。

 しょうがない。……言うだけ、言ってみよう。

 ポケットの中の拳を握りしめ、ぐいっと曽根を見上げた。

「あのねっ」

「おぉ」

 思ったよりも響いたわたしの声に、曽根が目をぱちくりとさせる。

「今日、手袋忘れてっ」

「ああ」

「今、手が冷たくてっ」

「はあ」

「だから……っ」

 そこまで言って俯くわたし。ていうか、少しは察してよ曽根!

 手は相変わらず冷たいんだけど、顔には熱が集中してる。暗がりだから分からないだろうけど、相当赤くなってるはずだ。

 照れ臭いし、嫌がられたらっていう不安もあったけど。でもどうしてもお願いしたいから、意を決してわたしは再び曽根の顔を見た。

 訝しげな色をした瞳と目が合った。

「……手、つないでくれませんか?」

 手を引いてもらうことはあったけど、改めてちゃんとつないだことはなかったんだ。だから、やってみたいんだけど。

 上目遣いで彼を見ながらぽつりと言ってみた。すると曽根は一瞬、目を見開いて――。

「お、前なあ……っ!」

 口元に手を当てて、怒ったような声をあげた。


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