デートに行こう! 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ そして見下ろした瀬戸はというと、両手で顔を隠して俯いていた。しばらくそうしていたかと思ったら、指の隙間からこっちを見上げて、おぼつかない口調で言う。 「曽根は、時々スゴい直球なこと、言うよね……」 「……そうさせてんのはお前だろーがっ」 噛みつくみたいに言ってやると、瀬戸はしまりのない表情で笑った。それを目にして、俺も口元をゆるめる。 他人に絶対聞かれたくないような恥ずかしい科白でも、必要ならきっちり口に出してやる。それでコイツが笑えんだったら、それでいい。 野球か瀬戸か、選べって言われても選べるわけねーし。そもそも比べるようなモンでもない。だけど今の俺にとっては、どっちも欠かせない大事なモン。 野球とは別の場所で、同じくらい夢中になれるもんがあるとは思わなかった。どんなに振り回されたって、コイツ相手だったら迷惑でも何でもない。 必死になってつかまえた――そういう特別なヤツだから。 「で、分かったのかよ?」 いつまでもヘラヘラと笑っている瀬戸に、俺は少し咎めるように訊ねた。すると彼女はこれ以上ないってくらい、嬉しそうに頷く。 「うん! よく分かった」 そして、いつかのときみたく両目をキラキラさせて口を開いた。 「それじゃ、早速お願いします」 「――何?」 目をぱちくりとさせて応じる俺。さて、一体何を言われるのか。 姿勢を正して身構えて向き合って、そこに投下されたのは実に可愛らしい願い事。 「次も一緒に、水族館に行ってください」 「……お安い御用」 ニヤリと口の端を上げて了承すると、瀬戸はさらに屈託なく両目を細めた。 次がいつになるのかなんて決まってないけど、それでもカノジョは笑ってくれた。 ソレらしいことをするには圧倒的に時間は足りないけど、不安も寂しさも吹き飛ばすくらい、しっかりキモチを伝えよう。 思って思われて、手に入れた特別なヤツだから。 次の休みも晴れるといい。そしたら一緒に出かけよう。 その満面の笑顔を連れて、望む所にデートに行こう。 キミとならどこだって、絶対楽しいはずだから。 『デートに行こう!』終 |