デートに行こう! 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 部室に引き返してきた俺はそのドアをくぐって、すぐに窓という窓を開け放った。朝練後の部員たちの汗の匂いが残っていたのだ。振り返れば瀬戸も、微妙なカオをして立っている。 「とりあえず、座って」 俺が促すと、瀬戸は頷いて手近なイスに腰掛けた。その隣に別のイスを引きずってきて俺も座る。すると少しだけ居心地悪そうに彼女は身動ぎした。が、やがて意を決したように口を開いた。 「あの、日曜日は……」 迷惑かけて、ごめんなさい。 深々と頭を下げて告げられた言葉。膝の上で握りしめられた拳は白く震えていて。 「大丈夫だったんなら、別にいいって」 可哀想なくらいしょげかえっている、その様子を目の当たりにして俺はできるだけ優しく言った。実際、心配してただけで怒ってたわけじゃねーし。 だけど、瀬戸はそれだけじゃ気が済まなかったらしい。ぱっとこちらに目を向けて、なおも言い募る。 「でも、変なコト言って、困らせちゃって……」 ごめんなさい、と。また告げられた言葉に、俺はかすかに眉をひそめた。 だって、別にそれは。 「謝ってもらうようなことじゃない」 「え……?」 軽く目をみはった瀬戸を横目に、俺は話を続けた。 「お前は思ったこと、言っただけだろ? 言われても仕方ないことだと思うし」 俺がコイツの優しさに甘えて、寂しい思いをさせてたのは事実だ。だから、それに関しては謝ってもらう理由はない。 むしろ――。 「ごめんな」 ぽつりと落とすように呟いた俺の科白に、瀬戸は目を更に大きくした。 「もっといっぱいあるんだろ? 言いたいことも、やりたいこともさ」 「そんなこと、」 ないワケないだろ。 そう思いを込めて視線を強くすると、瀬戸はもごもごと口をつぐんだ。俺は首の後ろを掻きながら、再び口を開く。 「もっとさ、言いたいこと言ってヘーキだから」 言われたからって、すぐにどうにか出来る問題ばっかじゃねーけど。それでも考えることは出来るから。 「だからさ、ちゃんと話してみろよ」 「でも迷惑」 「じゃないから」 瀬戸の声に被せて否定する。少し強めの口調になったせいで、瀬戸は驚いた顔をした。「ワリィ」と頭を下げてから、俺は続ける。 「しつこく言われりゃ迷惑だけど、お前は文句とかあんまり言わないじゃん。どっちかっていうと、言わなさ過ぎ」 「そう、かな」 「そうだよ」 不安そうに首を傾げる彼女に、俺はきっぱりと言い切ってやる。すると彼女はおそるおそる、こちらを見上げてきた。 |