デートに行こう! 3
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(――瀬戸だ)

 足を止める。そして彼女を見つめた。瀬戸はすでに教室に行ったらしく、荷物は持ってない。時折、誰かを探すみたいに視線を彷徨わせている。

(俺、か?)

 十中八九、そうだろう。そう思って深呼吸した。覚悟を決めなければならない。

 瀬戸の本音と向かい合う覚悟を。

 ゆっくりと再び歩きだす。気配を感じたらしい彼女が、こっちを向いた。

 軽く唇を噛み締めた、真剣な表情が目に入った。

「……っす」

「おはよう」

 向かい合って、ぎこちなく挨拶をかわす。

 ものすごく、気まずい。

 それでも、このままの状態が続くのは勘弁だ。何か話を繋げねえと。

「熱、下がったんだな」

 見りゃ分かるよそんなこと! と頭ン中で突っ込みながら、俺は何の捻りもない科白を口にした。しかし瀬戸は気にした様子もなく、コクっと頷く。

「おかげさまで……」

「あー……よかったな」

「うん」

 今までにないくらい上滑りな調子のやり取りをして、俺たちは押し黙る。

 傍らを行きすぎる生徒が不審そうに俺たちを見た。そりゃそうだ。じきにチャイムが鳴るこの時間に、下駄箱の前で立ち尽くす一組の男女。目立つこと、この上ない。

「あのっ」

 瀬戸の声が小さく聞こえた。俺は静かに彼女を見下ろした。

 そこには両手の拳を握りしめ、踏張るように立つ彼女の姿。

 ああ緊張してんだな、と他人事みたいに思う。コイツはいつもそうだ。俺と何か大事な話をするとき、怖気づいた自分を奮い立たせて一生懸命伝えようとする。

 スゲー必死な表情(かお)をして。

 俺はそれに自惚れてるだけでいいんだろうか。そんなコイツの一挙一動に勇気を貰ってじゃないと動けないなんて。

(情けねーや、ホント)

 大きく息をついた。それに瀬戸がびくりと身を竦ませる。思わず苦笑したくなって、けれどそれを何とか堪えて、俺は彼女を真っ直ぐ見据えた。

「お前、日本史得意だったよな?」

「へっ?」

 脈略のない俺の問いに、瀬戸はすっとんきょうな声を上げた。通りすがりの人間がまた訝しげな目を向けてくる。

 俺が黙ったまま答えを待っていると、やっと理解が追いついた様子で小さく頷いた。同時にポケットの中の鍵の存在を確かめる。

(――よし)

 それを握りしめて、俺は瀬戸を促した。

「一限、サボるぞ」

「えっ?」

 驚く彼女をよそに、俺は強引にその手を引いた。よろよろと、彼女がついて来る気配がする。

 だって思っちまったんだ。

 今じゃないとだめだって。

 鳴り響くチャイムの音を背に、俺たちは校舎を後にした。


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