思うより、ずっと 2
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 見なかったことにして立ち去ることができなかった俺はどうにも間が保てず、寒そうだった瀬戸に使っていたカイロを渡した。今にしてみたら何でカイロ? と思わないでもないが、泣いてる女子を巧く慰められるほど俺は器用ではない。だからって、完全に無視できるほど図太い神経をしてるわけじゃない。――まあ、その結果がああなったわけなんだが。

 思い出して気恥ずかしくなり、俺は頭をがしがしと掻いた。目の前で健やかな寝息をたてている瀬戸が気がつく様子はない。

 あれ以来、何となく気になってた――でも探すほどでもなかった――彼女が、春になってクラスメイトとして現れたときは純粋に驚いた。そして、同時に安心した。その子はあの時の泣き顔が幻だったんじゃないかと思えるくらい、よく笑ってはしゃいでいたから。

 喋る機会は日ごとに増えていったが、瀬戸があの日のことに触れることはなかった。覚えていないのかもしれないし、仮に覚えてたとしても大泣きしていたときのことだ。あまり思い出したい記憶ではないだろう。

 瀬戸はいつだって屈託なく笑っていたから、コイツが一人でボロボロに泣く理由が何だったのか、正直なとこ想像もつかない。誰か親しい人が亡くなったとか失恋したとか、そういう話なんだろうけど。

 ――じゃあ、もしも。

「俺がお前をフッたとしたら、やっぱり泣くのか?」

 呆れるほど深く眠っているらしい瀬戸に俺は訊ねた。もちろん、答えはない。気持ち良さそうな寝息だけが聞こえてくる。

 瀬戸のことを好き嫌いで問われたなら、俺は好きなんだと思う。ただコイツと同じ気持ちなのかというと、わからない。瀬戸が真剣だってわかっているから余計に。

 だけど、わかっていることだってあるんだ。

 俺はコイツに泣いてほしくない。

 気持ちに答えられてないっていうのに、何調子のいいこと考えてんだろう。それ以前に瀬戸が俺にふられたからって、泣くとは限らないのに。

「にゅうう……」

 思考の泥沼にどっぷり浸かっていた俺の耳に、変な声が届いた。見れば瀬戸が顔を上げて、目元を擦っている。やっとお目覚めらしい。

「……れ? 曽根、どしたの」

 顔同様にぼんやりとした口調で、瀬戸は問うてきた。俺はそれに肩を竦めて応じてやる。



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