デートに行こう! 2
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「今度って、いつのこと……?」

 今度。『今度』がいつかなんて、そんなこと。

(答えられねえ)

 思い切り、顔をしかめた。

 俺は瀬戸が満足できる答えを持ってない。日曜日が丸一日オフになるなんてこと、滅多にないんだ。そんな俺が『次はいつ』なんて、確実な約束をすることはできない。

 瀬戸はまた黙る。肩が微かに震えている。不審に思って、何気なく見やった彼女の手もとに。

 ぽたり、ぽたりと。

 透明な滴が落ちるのが見えた。

(げっ……)

 胸中で呻いて、慌てて彼女の顔を覗き込んだ。そして歯噛みする。

 いつも笑顔が湛えられてるその顔は、今は涙でぐしゃぐしゃだった。

「瀬戸」

 呼びかけて、俺は背中をさすった。彼女は俺から顔を背けて、押し殺した声で言う。

「ごめ、なさ、い」

「謝ることじゃねーよ」

 すぐに否定してやった。だってホントに謝られることじゃない。

 瀬戸は分かってる。分かってて、それでも零さずにはいられなかったんだろう。

 次がいつになるかなんて分からないから。

「なあ、瀬戸」

 俺は静かに彼女に訊ねた。

「寂しかった?」

 その問いに、瀬戸は更に顔を俯けた。動いた拍子にまたぽたぽたと涙が落ちる。

 自分の情けなさに、唇を噛み締めた。

 嫌みも文句も何一つ言わずに笑っていても、いつも楽しく過ごしてたわけじゃない。

 今日みたいな日が来るのをコイツはどれだけ我慢して、どれだけ楽しみにして待ってたんだ?

 別にこれが最初で最後ってわけじゃないけど、今日という日に拘るのは。

 聞き分けのないガキみたく、必死にしがみつくのは。

 全部、俺が――。

(俺が寂しい思い、させてたからじゃねーか)

 瀬戸が我慢して笑ってることに気がついてて。それでもコイツの笑顔に甘えていたから。

 だから、コイツが泣くはめになったんだ。

 それでも瀬戸は俺を責めない。我慢できない自分が悪いと思って謝るんだ。

 堪えきれず、涙を零して。



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