デートに行こう! 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「……おい」 「もうちょっとー」 「そう言って、もう十分だぞ」 「だってー」 俺が発する呆れ声に見向きもせずに、瀬戸は水槽の前に張りついていた。 今、彼女の視線を一身に受けているのは、ガラスの向こう側を泳ぐマンボウだ。 このフロアに来てマンボウを見つけてから、瀬戸はずっとこの調子だ。「あの身の詰まり具合が何ともいえない」とか言いながら、幼稚園児みたいに目をキラキラさせている。 どうやら相当の動物好きらしい。さっきもペンギンの前で十分以上、立ち止まってたし。 喜んでるし楽しんでる。それはいいことだ。しかし昼飯をまだ食ってないせいで、俺の腹は切ない悲鳴をあげている。瀬戸のこの様子じゃ、いつ昼飯にありつけるか分からない。 俺は肩を落として、再び彼女に声をかけた。 「あんまり時間かけてると、他が観れなくなるぞ」 確かイルカショーも観たいと騒いでいたはずだ、コイツは。 「後でまた戻ってきてもいいんだし……」 俺はそう言って、ゆっくりと彼女に近づいた。 そして目にしたのは、ガラスに額を寄せて目を閉じる彼女の姿。 その顔は赤く、苦しそうなもので。 「……瀬戸」 「――っ、びっくりした」 低く抑えた俺の声に、彼女は肩を震わせて目を開いた。そして軽く笑うと、くるりと踵を返す。 「ごめんね。次、行こう」 「ちょっと待て」 行きかけた彼女の肩をぐっと掴み、こっちに身体を向けさせた。そして半眼で睨みつける。 「えと……?」 引きつった笑みを浮かべて、俺を見返す瀬戸。その顔は赤い。目も心なしか潤んでいる。 俺はおもむろに瀬戸の額に手を当てた。彼女は身を竦ませる。しかしそれに構わず、俺は大きく息をついた。 ――熱い。 「……お前な」 唸るような俺の呟きに、瀬戸は更に縮こまった。てことは、自覚があったってことだな。 これじゃあ怒られたって文句は言えないだろ。 ひとつ舌打ちして、俺は厳しい口調で言い放った。 |