そうして始まる僕らのカタチ 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「――髪の毛」 「え?」 「食ってる」 すい、と成瀬の手が伸びてきた。さっき頬にかかった髪が口元まで引っ掛かってることに、そう言われて気がついた。 そっと、除けてくれる。だけど髪はそのまま、彼の指に掴まれたままで。 (う、動けませんがっ) 今まで感じたことのない緊張感に身体が強ばった。いっそ目を逸らしてしまえば、こんな空気は消えてしまうのに。 見つめあったまま、動けなくて――何かもう、とにかくダメだと思った。そのとき。 「――お楽しみのところ、申し訳ないのですけど」 『ぎゃあっ!』 いきなり聞こえた女の人の声に、わたしと成瀬は悲鳴をあげた。その拍子に、彼の手が離れる。 そこにひょっこりと姿を現したのは、保健医の先生。わたしのお母さんより年上に見える先生は、ニコニコと実に楽しそうにおっしゃった。 「仲良しなのはいいんだけど、一応ココ学校だから」 「すすすすすんませんっ!」 「ご、ごめんなさいっ」 さっきの自分たちの状況を思い出して成瀬とわたしは平謝りした。ていうか、ここまで動揺してる成瀬も珍しい。 ちらりと目を向けると、彼は額に手を当てて「あー」とか「うー」とか唸ってた。 大丈夫かな、と首を傾げたら先生がわたしを呼んだ。 「お母さんがお迎えにいらしたわよ?」 「あ、はい」 その言葉に我に返る。慌ててベッドを抜け出そうとして身体の向きを変えると、成瀬と目が合った。 「俺も、もう戻るな」 「う、ん」 何だかひどくギクシャクした話し方の成瀬。その物珍しさにきょとんとして、わたしは応じた。 成瀬は無言で先生に頭を下げると、わたしに片手を挙げてから物凄いスピードでその場を去った。 (えーと……) 「若いわねぇ」 「は、あ」 のほほんとした先生の呟きに、わたしはぽりぽりと頬を掻く。 (大丈夫かな、ホント) そう思いながら身支度を整えて、わたしは保健室を後にした。 * * * |