そうして始まる僕らのカタチ 4
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 そこまで言って、俺は言葉を切った。これから自分が口にすることで、また綾部を追い詰めてしまうのかもしれないけど。

 でも伝えたいんだ。手放したらいけないと思うんだ。彼女の本音をいちばん近くで聞ける、この距離を。

 ――どんなに、怖くても。

 意を決して向けた視線の先には、泣き出しそうなのを懸命に堪えている綾部がいる。それを見て、俺の中に沸き起こるのは。

 ただただ、彼女を大切にしたいというその想いだけだった。

「もし、まだちょっとでも俺がお前の『特別』になってもいいって思ってくれてんならさ」

 喋るのに、こんなに苦労した覚えは今までない。野球やってるときとは全然違う力の使い方をして、俺は言いたいことを何とか言い切った。

「俺のこと、好きになって」

「……いいの?」

 ぽつりと囁かれる。俺はただ頷く。

「何か、まだ、あやふやで……自分でも、何て言っていいのか分かんないけど」

 それでも大丈夫。だってその気持ちは本物だ。名前はまだ付けられないけど、彼女が必死になって出した答えだ。

「成瀬のこと『特別』に好きになってもいいですか……?」

 その言葉に頷いた。何度も何度も。嬉しくて、声にならなくて、ヘタしたら俺のが先に泣いちまいそうだ。

 だけど一言、俺だってちゃんと口に出さなきゃなんない。

「……綾部」

 震えそうになる声を抑えつけて言うと、彼女がこちらを見た。

「俺は、お前のこと『特別』に好きだよ」

 そう告げた、その瞬間に綾部の身体が崩れ落ちた。

「だ、大丈夫かよっ?」

 照れ臭い雰囲気も吹き飛んで、俺は慌てて駆け寄る。

 すると。

「何か、すご……」

「は?」

「すごいびっくりして」

 ――腰が抜けちゃった。

 真っ赤な顔で照れたように笑って、綾部が言った。

「……何だ、そりゃ」

 思わず吹き出して、差し伸べた手。そこにおそるおそる触れてくる彼女の指先は、すっかり冷えきってしまっていた。

 それに少しばかりの申し訳なさを感じて――だけどきっとこの冷たさすらも、忘れられないものになるんだろうなとか考えて。

 俺はその手をゆっくりと引き上げた。



  【続】

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