そうして始まる僕らのカタチ 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「ごめん、ね」 「……何が?」 ぶっちゃけ、謝ってもらいたいことなら山程ある。嫌な思いだってたくさんした。だけど綾部は詫びの言葉を繰り返すだけで、あとはまともに話そうとしなかった。俺はそれにも、腹を立てていて。――それがさっきまでの、彼女と俺。 だけどもう、綾部は覚悟を決めたみたいに、小声ではあったけどきちんと話し始めた。 「わたし、ヒドイこと、いっぱいして」 「……うん」 「自分の気持ちがよく分からなく。成瀬が真剣なの、知ってるのに、それが怖くって」 ――ちゃんと、はっきりと応えられないことが何より怖くて。 「自分の気持ちが成瀬と同じなのか、分かんない。成瀬のこと好きだけど、同じ気持ちか、分かんない。わたしの気持ちは、みんなが教えてくれたのと同じ物なのか……考えても分からなくて」 たとえば、瀬戸サンが曽根に感じているもの。 綾部の周りが語った『恋』と言う想いのカタチ。 それはとても穏やかで優しいものだと。綾部はそう思い込んでいたから、まさか自分がここまでかき乱されるとは、予想もしなかったんだろう。 「わたし、みんなからちょっと変わってるって言われるし。だから、みんなが言ってたことに当てはまらないだけなのかな……」 (……ああ) ゆっくりと話す彼女の声を聞きながら、俺は胸中でひとりごちた。 変わってるけど、人の輪から浮かない。だから世渡り上手な器用なヤツだと思ってたけど。 (不器用なんじゃん、コイツ) 苦笑気味に思う。そして俺は口を開いた。 「いいよ、もう」 その声に俯き加減だった綾部が面を上げる。顔はもう泣き出す寸前で、そりゃヒドイもんだったけど。 「無理に他人の言うことに当てはめなくてもいいんだよ。綾部は綾部だろ?」 「わたしは、わたし……?」 弱々しく訊き返す彼女に、俺はひとつ頷いた。 「お前がそんだけ頑張って考えた気持ちだろ? どんなモンでも、それはちゃんと本物でお前だけのモンなんだから。他人と違うかもしれないなんて、引け目に感じることないんだよ」 だってさ。 「俺が聞きたかったのは『ごめん』じゃなくて、お前が泣きそうになって考えて、今話してくれたお前の本心なんだから。だからさ」 |