そうして始まる僕らのカタチ 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「バカ成瀬! あっち行ってー―っ!」 「お前がンなカッコで、そんなトコに登るのがわりぃンだろっ!」 「だって成瀬、追っかけてくるんだもん!」 「お前が逃げるからだろ!」 上と下でぎゃんぎゃんと怒鳴って、俺たちは睨み合う。 つーか、もう本気で埒があかねえ。 「そこでじっとしてろよっ!」 「なに? って、やだやだやだっ!」 大きく舌打ちして綾部の座り込んだ場所に登ろうとした俺を見て、彼女は慌てて立ち上がった。だが、俺にそれを聞く耳はない。 「わかった! 下りる! おりますっ!」 さすがに、これ以上追い詰められたくなかったんだろう。綾部は叫ぶみたいに言うと、躊躇なくそこから飛び降りた。俺は驚いて、すぐさま彼女の元に向かう。 「あぶねーだろ」 無事な様子にホッとして呟くと、綾部がそっぽを向いて応えた。 「木登りとか、得意だからヘーキ」 「そっか」 意外にも思えたけど、何となくコイツらしいかもと納得してしまった。 綾部美希っていう人間は、ちょっと他の女子とは違って変わってる。それが俺がコイツに対して常々、思っていたことで。 誰も気に留めないようなことを、疑問に思って考える。納得いくまで追求するその姿は、いっそ天晴れと言えるほどで。 だけど、そのマイペースっぷりは明らかに他者とは違う。本当なら、人の輪から弾き出されたっておかしくないくらい浮いて見えるときだってある。でも、不思議と馴染んでる。そういうイミで変なヤツ。 いちいち質問しに来る姿は、ウチの妹を彷彿とさせて、自然と気になってた。わりと最初から、俺は綾部に好意はあったんだと思う。 それが恋だとか、そういうことはカンケーなく。 目の前に立つ彼女に、もう逃げ出す素振りは見られなかった。相変わらず顔は余所を向いたままだけど、随分と落ち着いたみたいだ。 俺はそんな彼女を見下ろしながら、何から話せばいいものか迷っていた。口を開いても声は出ない。言葉が思い浮かばない。 話さなければ。その思いだけで、ここまで追いかけてきたっていうのに。 途方に暮れて空を仰ぐと、ぽつりと綾部が呟いた。 |