そうして始まる僕らのカタチ 4
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 さて、どこにいるんだか。

 友人たちに送り出された俺は、まず綾部を探すことから始めなければならなかった。あいつが姿を消して時間が経ってしまっていたせいだ。

 幸いだったのは、綾部が忘れ物をしたと言っていて、校舎に向かう彼女を間宮が見てたってこと。まったくアテもなくフラフラするより、なんぼかマシだろう。

(あー、でも行き違う可能性もあるか)

 思いついてため息をついた。そうなってしまうと厄介だ。

(まだ居てくれることを祈るのみだな……)

 頭を掻き掻き、俺は自分の教室に行くため、階段に足をかけた。そのとき。

「あ」

「――っ」

 段上から姿を現した探し人が、息を呑む音が聞こえた。

「綾部」

「成瀬……」

 ようやく、やっと。久しぶりに綾部の目を見ることができた。

 だけどやっぱりその瞳は触れたら涙がこぼれそうな、そんなカンジで。

 ホントは今すぐあいつの側に行って、ちゃんと話したい。だけど、そうしたら絶対泣く。泣かせてしまう。――その迷いがいけなかったんだと思う。

「ごめんっ」

「なっ?」

 綾部は短く言い置くと、一瞬の隙をついて身を翻した。そして勢いよく階段を駆け上がる。

「――っ!!」

 スカートの裾と彼女の髪がふわりと浮いたのが、やけに目に焼きついた。また逃げられた。すぐにそう理解した俺は。

「ふっざけんなよっっ!」

 また背中を見せやがった綾部に大声で怒鳴りつけて、猛然とその後を追った。


 もう、何ていうか。

 怖がらせないようにしようとか、落ち着いてゆっくり話そうとか――そういう気遣いめいた思考はどこかに消し飛んでしまっていた。

 彼女を追って、階段を駆け上がりながら考える。

 だから、どうして逃げるんだ? そんなに俺がイヤか? でもお前、さっき言ってたじゃねーか。

 俺が『特別』だったらって言ってたじゃねーか。

 同じように想っているはずなのに、どうしてそんなに怖がるんだよ?


 前方に見えるのは綾部の細い背中。相当の全速力で走っているらしく、なかなか差が縮まらない。

 曲がり角で時折視界から姿を消しながら、彼女が向かっていくのは上の階。

 このまま行ったら、行き着く先は――。

(屋上、なんだけど……)

 ただ放課後になってだいぶ時間が経っているから、カギが開いてるかどうかは微妙だ。

 どちらにしろ、上に行けば行くほど綾部の逃げ場はなくなるだけなのだが……あいつ、パニくってもう訳が分かってねーな。

 少しだけ冷静さを取り戻した俺は、綾部の姿を見失わないことだけを考えて、無人の廊下を走り抜けた。


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