そうして始まる僕らのカタチ 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ そんな中で、さっきより幾らか落ち着いた様子で瀬戸サンが口を開いた。 「あのね、成瀬くん。わたしは嬉しかったの」 大きな目をこちらに向けて、彼女ははっきりとした口調で言った。 「曽根が逃げたわたしを追いかけてきてくれたとき、怖かったし、びっくりしたけど。でも、嬉しかったの。……だから」 きっと綾部さんも、一緒だと思うよ。 その言葉に、俺は唇を噛んだ。 それがホントだったら、どんなに嬉しいか。だけど俺の中には、瀬戸サンの言葉を頭から信じられるほどの自信はない。 「……ああ、なるほど」 「やっと状況が飲み込めたかも」 曽根が片眉を上げながら、間宮が後ろから顔を覗かせながら、それぞれ呟いた。そして、曽根が生真面目な表情で俺を見る。 「あのな、成瀬」 首の後ろを擦りながら、曽根はゆっくりと口を開いた。 「ちょっとでも後悔するかもしんねえって思ってんだったら、今すぐ探しに行ったほうがいいんじゃねーか」 「曽根」 「逃がしちゃいけないもんって、絶対あんだよ。怖い思いをしても、させても」 学校中の噂になるくらい恥ずかしい思いをしたってさ。 珍しく――本当に珍しく柔らかく笑って曽根が言った。その隣で瀬戸サンが嬉しそうに微笑んでいる。 (ああ、そうか) 曽根にとっての瀬戸サンが、そういう存在。 じゃあ、俺にとっては? 考えたときに浮かんだのは、あいつの顔。 いつも見てた。知っていた。 それが恋だとか、そんなこと思いもしなかったときから。 人懐こく笑う顔も、ムキになって怒った顔も。 戸惑って、泣き出しそうになった顔も。 「わりぃ……」 ぐしゃりと前髪を掻き上げて、俺は呟く。 「ちょっと、行ってくる」 静かに踵を返して、俺は外に向かう。 「がんばれー!」 「後で報告しろよー」 「泣かせんじゃないわよ」 「……しっかりな」 四者四様の励ましの言葉に背中を押されて、俺は部室を飛び出した。 * * * |