そうして始まる僕らのカタチ 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「あー、じゃあ」 「うん、がんばってねー」 ちょっと照れ臭そうに言って片手を挙げた曽根くんに、瀬戸さんはへにゃりと笑って手を振った。その頬は僅かに赤く染まっていて。 (あ、そうだった) また唐突に思い出した。そうだ、この二人は学校中の噂の的の『彼氏と彼女』だったんだっけ。 やわらかく瞳を細めて曽根くんを見送る瀬戸さんを見ていたら、ぽろっと呟きが零れた。 「いいなあ……」 「え?」 弾かれたようにこっちを見た瀬戸さんに、わたしは言う。 「仲いいんだね、彼氏くんと」 「あ、うー、うん」 わたしの言葉に瀬戸さんは急に視線を彷徨わせ始めた。照れてるんだろうな。 「いいなあ、かわいいなあ」 「あああ綾部さんっ?」 わたしより小さな身体をバタバタさせている瀬戸さん。そんな彼女をニコニコと眺めていたら。 「……何やってんの、初璃(はつり)」 後ろから怪訝そうな声が聞こえてきた。わたしが振り返るのと同時に、瀬戸さんがその人の名前を呼ぶ。 「冴香、掃除終わったの?」 「一応ね。あとは間宮をシメるだけ……って、えーと?」 瀬戸さんの疑問にその人――白のジャージ姿で色素が薄い感じの美人さんが、似合わない不穏な発言を返す。そしてわたしの方を見た。その視線の意味を解して、瀬戸さんが口を開いた。 「隣のクラスの綾部さん」 「隣のクラスって……ああ、成瀬のクラスか」 合点がいったように頷く彼女。そして、ハキハキとした声で話しかけてくれる。 「わたし、藤原冴香。野球部のマネジやってます。よろしくね」 「あ、綾部美希ですっ」 彼女――藤原さんのきりっとした雰囲気に、わたしは姿勢を正して名乗った。すると彼女が苦笑いしながら訊いてくる。 「で、綾部さんは野球に興味あるの? それとも誰か、お目当てがいるのかな?」 「いえホントただの通りすがりですっ」 わたしが即座に否定すると、藤原さんは「何だー」とつまらなそうに唇を尖らせた。 「結構、そういうコが多いからさあ。アイツらのコトからかういいネタになるかと思ったのに」 「冴香ってば……」 どうやら藤原さんはかなりイイ性格をしているらしい。傍らで瀬戸さんが呆れたように眉をひそめていた。しかし藤原さんはそれを無視して、再びわたしに問う。 |