そうして始まる僕らのカタチ 3
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「ごめんなさい! そんなにびっくりされるとは思わなかった」

「あ、あぁ……瀬戸さんか」

 いつの間に外に出てきたのか。そこにはジャージ姿の瀬戸さんがちょこんと立っていた。彼女は満面の笑みを浮かべて、わたしに問うてくる。

「野球、好きなの?」

「え、ええとっ」

 唐突な質問に狼狽えるわたし。ルールは何となく分かるけど、正直それほど興味があるわけではなくて。

 ああ、でも。

「がんばってる人を見るのが好き、かな」

「そっか」

 その答えに瀬戸さんが満足そうに笑みを深めた。何かこっちまで和んでしまう。

 つられてわたしも笑みを返して、さっき疑問に思ったことを訊ねてみる。

「マネージャー、やってるの?」

「ううん。お手伝い」

 軽くかぶりを振って、瀬戸さんが答えた。それに更に首を傾げて、わたしは問う。

「知り合いがいるの?」

「友達がマネジやってて。あと……」

 瀬戸さんが少し口籠もるように言いかけた、そのとき。

「瀬戸」

 聞き慣れない、低い声が彼女を呼んだ。

「あ、曽根」

 瀬戸さんはぱっと表情を明るくさせて、声の主に目を向けた。わたしも、そちらを見る。

 フェンスの向こう側に立っていたその人は防具をつけたまま、無表情にこちらを見ていた。そして、わたしに気がつくと「ちわっス」と頭を下げてきた。

「こんにちはっ」

 わたしも慌ててお辞儀する。そして思い出した。彼はよくウチのクラスに来る人だ。成瀬と話してたのを何度か見たことがある。

「藤原、どこ行った?」

 不機嫌ってほどじゃない、淡々とした口調で彼は瀬戸さんに訊ねた。

「冴香(さやか)は部室の掃除してるよ。マミーが置きっぱなしにしてたお菓子に虫がわいたって」

「何やってんだ、あの野郎……」

 苦虫を噛み潰した表情で曽根くんは言うと、またわたしのほうを見た。

「成瀬に用事なら、中で座って待ってれば?」

「へ?」

「あ、そっか。成瀬くんと同じクラスだったよね」

 ぱちんと瀬戸さんが手を打ち鳴らして、わたしを見上げた。

「成瀬くんねー、部長会に出てるんだって。もうそろそろ帰ってくると思うよ」

「いえ、あの、別にっ!」

 わたしは両手を使って瀬戸さんを押し留めた。

「用事とかじゃなくって、ただ見てただけだからホント」

「そうなんだ」

 わたしが全力で否定すると、二人は似たような角度に首を傾げた。その様子が何だか微笑ましい。



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