臆病すぎた卑怯者 5
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 その後はマネジである冴香に頼んで、名前とクラスを教えてもらい――だけど、何もできないまま時間だけが過ぎて、春が来た。

 そして新学期、新しいクラスで曽根に会えたのはホントに嬉しかった。

 曽根は思ってたよりずっと短気で乱暴な喋り方をするヤツで――だけど律儀というか、面倒見のいい性格をしてて。少しずつ仲良くなって、曽根のことを知っていけるのが楽しかった。曽根はあの時のことを覚えてないみたいだったけど、そんなの問題にならないくらい。

 そして気がついたら、わたしは彼のことが好きになっていたんだ。

「……成る程。あんたが曽根を好きになった経緯はわかったわ」

 夏休み前のわたしから彼への衝撃の告白について、休みを半分以上過ぎた今日になって、やっと冴香に事情を説明することができた。それを受けて、冴香は重々しく頷く。しかし、すぐに目を光らせて問いかけてきた。

「それで未だに付き合ってないって、どういうことよっ?」

「あはははは」

「笑ってごまかすな!」

 わたしの乾いた笑い声に、冴香は容赦なく突っ込んだ。ああでも此処は図書館です冴香さん。声が大きいです冴香さん。

 しかし彼女は周囲の咎めるような視線もなんのその、構わず話し続ける。

「まさか曽根の分際で渋ってるわけ?」

「いやいやいや! 曽根悪くないし!」

 曽根の分際って……野球部内の力関係を垣間見たような気がする。わたしが今まで以上に慌てて否定すると、冴香は剣呑な表情をこちらに向けた。

 あああ美人の冷ややかな視線はイタイです冴香さん。

「どういう意味かな初璃ちゃん?」

「……言って、ないのです、よ」

 もともと小さな身体を更に縮こませて、わたしは言った。冴香は無言で先を促す。

「付き合ってって……言ってない」

 それどころか。

「わたしのこと、どう思ってるのかさえ聞いてません」

「なによそれっ!」

 ついに立ち上がってしまった冴香。周囲の皆さん、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。わたしはぺこぺこ頭を下げる。それを見て少し落ち着いたのか、冴香も周りに向けて謝ると静かに座り直した。

 お互いに一度、深く深く息をつく。

 そして先に口を開いたのは、やっぱり冴香だった。


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