そうして始まる僕らのカタチ 3
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「飽和水蒸気量」

「へ?」

「空気中に存在できる水分量は温度によって変化するんだ。急に空気が冷やされると今まで水蒸気としてその中にあった水分が液体に変わるわけ。この場合はジュースの冷たさで缶の周りの空気が冷やされて、空気の中の水蒸気が水になって、缶の表面にくっついたんだよ」

「はあ……」

 こんなに丁寧な答えが聞けるとは思ってなかったわたしは、ぽかんとして彼を見上げた。彼は窺うようにわたしを見下ろしていて。

「……解りにくかった?」

 がしがしと頭を掻きながら訊ねてくる。わたしは慌てて、首を左右に振った。

「ううん! 大丈夫! 解った!」

「そか」

 ほっとしたように、彼は表情をゆるめた。わたしもそれにつられて笑う。

「成瀬くんは物知りだねえ」

 意外な人からちゃんと相手にしてもらえたのが嬉しくて、わたしがニコニコしながら言うと、彼は照れたようにそっぽを向いた。

「別に。……授業で聞いたことだし」

「あ、やっぱり?」

 だから何か引っ掛かってたのか。そう自分の中で納得していると、彼の笑い声が聞こえてきた。

「綾部さんって」

 変わってんのな。

 そう言ったときの、彼の苦笑気味な笑顔が。

 妙に心に残って、何だかほんわかした気分になったんだ。


 だけど、もうそんなカオを見ることは出来ないのかもしれない。


*  *  *


(……やっちゃった)

 一度は帰りかけた道のりを歩きながら、大きく肩を落とす。

 明日提出の数学の課題。それを机の中に置き忘れたわたしは、タラタラとした歩調で校舎に戻るところだった。バスに乗る前に気がつけたのが、不幸中の幸い。

(他のことで頭いっぱいにしてるから、こんなふうになるんだ)

 そう思って、深く深くため息をついた。

 頭の中も、心の中も、今のわたしは成瀬でいっぱいだ。

 あれから――本気で怒られてから、もう一週間近く彼とは話していない。隣の席なのに、顔もろくに見ていない。

 こっちを見るなと言わんばかりのオーラを発する成瀬に、わたしは掛ける言葉もなかった。ただ謝ることで済むような、そんな問題じゃないことくらい分かっていたから。

 だけど未だにどうしたらいいのか、分からない。


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