臆病すぎた卑怯者 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「まぢですか」 「まぢですよ」 「嘘みたい。信じらんない」 冷房がよく効いた図書館の奥まった席。わたし、瀬戸初璃と差し向かって座っている友人――藤原冴香(ふじわら・さやか)は短い問答の後、そうのたまった。そして続けて言う。 「あの曽根に、そんな優しさがあったなんてねえ」 冴香がわざとらしく、身震いをしてみせる。わたしはそれに苦笑した。 好きな人のこととはいえ、冴香の言うことを否定することはできない。だって曽根って短気だし、口も悪いし。マミーに対する扱いを見てたら、あの時の優しさがいかに貴重なものであったか、ねえ? 「で? そんな優しい曽根クンに、初璃は惚れたってわけですか」 手元のシャーペンをくるくる回しながら、冴香がからかうように訊(き)いてきた。今度はすぐに、わたしは否定する。 「いいひとだと思っただけだよ。誰かわかんなかったし」 「でもその後でしょ? わたしのトコに野球部の部員のこと、教えてくれって来たの。そのときはまさか、あんたがつらい思いをしてたなんて知らなかったから。ノーテンキにからかっちゃったけど」 ごめんね。冴香はそう言うと、顔を俯ける。肩にかかる髪が、さらりと揺れた。わたしは慌ててパタパタと両手を振る。 「言わなかったのはわたしの勝手だったんだから、謝んないでよー」 「よく……一人で頑張ったね」 冴香がじっと、こちらを見据えてきた。わたしは力の抜けた笑みを、冴香に返す。 「うん。あの時、曽根に会えたからね」 あの時、悲しみと寂しさに押し潰されずにすんだのは、彼が温もりをくれたからだ。それが単なる気紛れだったとしても、彼のくれた優しさがわたしを引き戻してくれた。支えてくれたんだ。 有ちゃんとのお別れが済んだ後、わたしは曽根にお礼が言いたくて密かに探していた。そして硬球を持ってたことから考えて、野球部の練習を覗きに行ったのだ。 そして、そこに彼はいた。 有ちゃんと同じ――マスクを被って、ミットを構えて、そこにいた。 |