そうして始まる僕らのカタチ 1
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 それはおとといの昼休みのことだった。いつものように不思議に思ったことを、いつものように成瀬に訊ねてみた。


『恋って何?』


 その問いに成瀬は面食らいながら(二回もコーヒーを吹き出した)、それでも真面目に考えてくれた。

 成瀬は、いつもそう。

 他の友達なら適当にかわしてしまうような質問も、時々困った表情(かお)をしながらもきちんと相手にしてくれる。

 色んな人に同じ質問をしたけど、なかなか納得できる答えが返ってこなかった。

 ある人は、その相手を想うと夜も眠れないと言い。

 ある人は、その人の姿を目にするだけでも幸せな気分になれると言った。

 はっきり言ってわたしには、まったく覚えのない話。そりゃ男の人相手にかっこいいなーとか思ったことぐらいはあるけど、みんなが言うようなキモチになったことはなかった。

 だから、どうしてもピンとこなくて。首を捻るばかりのわたしに友人たちは「お子さまだねー」と苦笑した。そして言ったのだ、「してみれば分かる」と。

 しようと思って出来るものなのか。やっぱりわたしには分からなくて。結局、いつもみたいに成瀬に頼ることにしたんだ。そして話していくうちに、思ったのは。

 いいなあ、素敵だなあっていうキモチが恋に繋がっていくものならば。

 わたしが成瀬を好きになる可能性もゼロじゃないってこと。

 だって成瀬はいいヤツだ。話しやすいし、結構優しい。頭もいいし、物知りだし、毎日真面目に部活も頑張ってるし。

 だから、もしも成瀬が相手だったら楽しいのかなって思って、それを口にしたら。

 何故だか怒られた。

 それは違うと否定されたみたいで、少し寂しい気分になった。残念だなって思った。

 そうしたら、彼に訊かれたんだ。「本気で言ってんの?」って。わたしはホントにそう思ったから、彼の問いを肯定した。

 そこで目にしたのは、はじめて見る成瀬の表情。いつもの人好きさせるようなものではなく、不敵に笑ったその両目には、わたしの知らない光があった。

 それは多分、成瀬がちょっとだけ見せた彼の『本気』のカケラ。

 それでやっと気がついたんだ。何で成瀬が顔を赤くしながら怒ったのか。

 わたしはちゃんとは分かってなかった。確かに成瀬を好きになったら、幸せなキモチになれるのかもしれない。ホントにそう思ったけど。

 あのときの成瀬の顔を見て、一瞬でも『怖い』って思ってしまったわたしには。

 本気で誰かを想う覚悟も、想われる覚悟も、まだないんだって。

 それを思い知らされて、恥ずかしくなって、その日は早退してしまった。成瀬に合わせるカオもなかったし。そして家で一人、悶々と考えたわたしは知恵熱を出して、翌日も学校を休んだ。

 以上がことの顛末なわけだけど。




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