そんなハジマリ 4
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 俺がそう告げると、彼女は困ったように肩をすぼめた。

「聞いてみたけど……よくわかんない」

「何だ、そりゃ?」

 思わず首を傾げると、綾部は両手をぎゅっと握り締めて訴えてきた。おーいティッシュがぐしゃぐしゃになるぞー。

「何かさ、夜も眠れないとか。勉強も手につかないとか。相手を見ただけで、その日一日幸せとか……想像できない」

 そして唇を尖らせる。

「わたしがわかんないーって言うと、みんなして『お子さま』とか言うし! 最終的には『してみれば解る』とか『頭で考えるもんじゃない』とか言われるし!」

「ああ。その通りかも」

「わたしが『お子さま』だって?」

 ぽつりともらした言葉に、綾部がむっとして反応した。いや、否定はできないだろ。

「てかさ、むしろ後半部分」

 俺はそう言って椅子の位置を直し、身体の向きを変えた。自然と綾部に向かい合う形になる。

「してみれば解るって?」

「そうなんじゃないの? こればっかりは」

 憮然とする彼女に、肩を竦めて答える俺。

 だいたい。

「今までに、したことないワケ?」

 俺の発したもっともな疑問に、綾部はぐっと詰まった。そして不機嫌に問い返してくる。

「そういう成瀬はどうなのさ」

「俺ぇっ?」

 言われて記憶を遡ってみるが、はて。

「いいなーと思う子はいたけど、つきあうとか考えたことねえな……」

 まして噂の片割れみたく、学校中を走り回って追いかけてまでどうこうっていう衝動に覚えがない。

「何だ。わたしと変わんないじゃない」

 俺の答えに綾部は安心したように笑った。

「でもさ、そういうのもきっかけではあるよな」

 すると綾部はまた腕組みをして、深々と頷いた。

「うん。リサーチの結果、そういう人も何人かいたね」

 リサーチって……コイツどんだけの人間に訊いてまわったんだ? 訊かれたヤツらの苦労を思うと、心底気の毒になる。綾部は疑問に思ったことは、自分が納得するまでとことん突き詰めて考えるヤツだ。悪く言えば、かなりしつこい。それが勉強に生かされれば、さぞかしいい成績がとれるだろうに。

 俺がそんなことを考えているとはつゆ知らず、綾部は話を続ける。


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