臆病すぎた卑怯者 2
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「……野球の、ボール」

 何となく拾い上げてしまい、わたしは呟いた。硬式の野球ボール。有ちゃんが使っていたから、わたしにも馴染みがあった。

 ああ、まただ。

 もうどうしたって止めることが出来なくて、更に視界が滲んでいく。

 そしたら今度は、人の足音が聞こえてきた。

「ったくテツの野郎! だからノーコンだってんだよっ」

 かなり不機嫌そうに毒づきながら、足音の主はこちらにやって来る。きっとボールの持ち主なんだろう。今は昼休みだから、キャッチボールでもして遊んでいたんだろうな。涙は流したまま、勝手に働く思考回路もほったらかしにして、わたしはボールを握っていた。

 少しして、足音の主が姿を現した。

「どこに飛んでったんだ……あ?」

 出てきたのは、眉間に深い皺を寄せた男子生徒だった。意思の強そうな顔立ちをした、だけどまだ幼さが残って見えるから同学年かもしれない。彼はわたしと目が合うと、一瞬きょとんとした。しかしわたしの持つボールの存在に気がつくと、ひどく慌てた様子で駆け寄ってくる。

「悪い! ぶつけちまったか!?」

 そう言うと、側にしゃがんでわたしの顔を覗きこんだ。

「大丈夫か? どこに当たった?」

 必死にこちらの様子をうかがってくる。それはそうだ。こんなふうにとめどなく涙を流してる人間が、飛んできたボールを握ってるんだもの。頭にでもぶつけたんだと、勘違いしても仕方ない。

 何だか申し訳なくなって、そしてこのヒドイ顔を見られたくなくて。わたしは俯きがちに、彼にボールを手渡した。

「だいじょぶ、です」

「でも」

「当たって、ないから」

 悪いとは思ったけれど、今はやっぱり一人になりたい。その一心で、わたしは彼にボールを押しつけた。

 納得してないんだろう。そんなオーラをありありと発して、彼はどうするべきか迷っているようだった。でもとりあえず、ボールは受け取ってくれる。


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