falsao 1
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 新年度が始まって二ヶ月近く経てば、新入生にまつわるいろんな噂が耳に入ってくるもので。



「次、六組ね」

「――三列目、中央」

「やー、ここは二列目のこの子でしょ」

「つーか、先輩。先輩が気に入った子って、みんな黒髪ストレートですよね? 早良(さわら)先輩に雰囲気似てません?」

「やだなー、大亮くん。髪の毛が黒いだけで、愛実(いとみ)さんに似るわけがないでしょー。それより大亮くんこそ、さっきからおとなしそうで、目が大きい子ばっか選んでるけど? そういえば美夏(みなつ)ちゃんも同じ系統だよねぇ?」

「……何が言いたいんですか?」

「いやぁ。お互い、刷り込みって恐ろしいなと思ってさ。あ、雄太くん! 雄太くんはどう? この中なら、どの子がタイプ?」

「タイプなんてありませんよ! いいから仕事して下さい! 仕事!」

「ないわけないでしょー? んじゃ、こっち。こっちのクラスは?」

「どこにもいません!」

「えー?」

「先輩、ムダムダ。雄太、女子苦手だから」

「……悪いかよ? 大体こんな集合写真、知り合いでもなきゃ皆同じ顔にしか見えねぇよ」

「それはまたダイナミックに大雑把な言い分だねぇ」

 ある麗らかな五月晴れの放課後、龍堂美晴(りゅうどう・みはる)がすっかり通い慣れてしまった生徒会室の扉を開けると、そこには頭を寄せ合って雑談に興じる友人と後輩二人の姿があった。正確に言うと、頭を寄せ合っていたのは、前生徒会長である友人と現生徒会長である後輩の内の一人で、もう一人の後輩は顔を盛大にしかめて二人の側に立っていた。いつも通りの光景だなと思いながら、美晴は肩を竦めつつ、挨拶代わりに問いを発する。

「何やってんの?」

「あー、美晴ちゃん」

 美晴の声にいち早く反応したのは、中学生のときからの友人、沢渡陽一(さわたり・よういち)だった。次いで二人の後輩――現会長の武村大亮(たけむら・だいすけ)と、副会長の日野雄太(ひの・ゆうた)――もこちらを向いて、それぞれ頭を下げてくる。

「ども」

「ちわっす」

「どうも」

 片手を上げて応じ、美晴は首を傾げた。

「で? 陽一と武村は一体何をそんなに盛り上がってたんだ?」

『今年の一年生女子の中で、どの子がタイプか』

「は?」

 異口同音にぴったり揃えて返された答えに、美晴は両目を瞬かせた。その様子を見かねてか、雄太がため息混じりに補足する。

「さっき老師の所に行ったら、この写真があって」

 そう言って、指し示されたのは机上に置かれた数枚の大判の写真。被写体である人間はそれぞれ違うものの、皆一様に真新しい制服に身を包み、生真面目な表情で写っている。

 いわゆる、クラスの集合写真というやつだ。

 美晴はその中の一枚を何気なく手に取った。『老師』こと、生徒会顧問でもある小松教諭は確か、今年は一年の学年主任だったはずだ。だから、これらの写真を所持していても別におかしいことは何もない。だが、それは写真がここにある理由にはならない。

 ちらりと陽一を横目で見ると、彼はにっこりと笑みを浮かべて口を開いた。



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