■紗耶
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「……この量を、どうしろと?」

 目の前にうず高く積み上げられた本の山を見て、大亮(だいすけ)はげんなりとした。

「持って帰るの」

 その本の山を愛しげに撫でながら、紗耶(さや)は艶やかに微笑んだ。



 本当にたまたま、所用があって足を向けた図書室――というより、その規模は図書館と言い換えていいだろう――に、紗耶にとっては宝の山が置いてあった。

 神代学院OBやPTAから寄贈された本の山である。

 簡単に整理してダブっている物があったら持って帰ってもいい。その司書教諭の言葉にのせられて、しっかり仕分をして悦に入っていたところ――大亮がやってきた。

「ホントいい所に来てくれたわ」

「マジで全部持って帰んのかよ」

 珍しく笑顔を絶やさない紗耶をよそに、大亮は彼女が選んだ本たちを何気なく手に取った。

「てか、お前ってどういう本が好きなの?」

「んー、雑食だからねえ」

 同じように本を手にして、紗耶は答える。

 ああ、でも。

「恋愛小説は読まないわね」

 面倒な恋愛は、現実だけでたくさんだ。

「何かお前らしいなあ」

 彼女の気も知らず、大亮はからからと笑う。

 紗耶はため息をつくと、彼を促した。

「じゃ、お願いね」


*  *  *


 二つに分けた本の山。

 それをそれぞれに抱えると、大亮は尋ねる。

「で、どうすんだ?」

「ウチのクラスまでよろしく」

 とりあえずロッカーに入れておいて、後は少しずつ持って帰ろう。それが彼女の計画だったのだが。

「いいよ。家まで運んでやるよ」

 だからとりあえず生徒会室へ。

「さすがに悪いわよ」

 慌てて辞退するが相手は聞く耳を持たず。

「さっさと行くぞー」

 妙にはりきったふうに、大亮は歩きだす。

 思いがけない優しさが嬉しくて、惚けたように紗耶は立ち尽くした。

 その顔にゆるゆると、鮮やかな笑みが浮かぶまで。

 カウントダウンは、あと5秒。



 【終】

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