無自覚症候群 2
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「失礼しました」

 そう言って、わたしはその部屋を出た。後ろ手に扉を閉めてから、大きく息をつく。

 ――やっぱり、芋づる式かあ。

 昨夜の大亮の言葉を思い出し、わたしは眉をひそめた。たった今まで自分がいた部屋の入口を見上げる。

 そこにかかったプレートには『生徒会室』の四文字。

 わたし――咲岡美夏(さきおか・みなつ)が、幼なじみの家にお世話になった日の翌日。大亮(だいすけ)の説得に失敗したらしい生徒会長が呼び出しをかけたのは、大亮本人ではなくわたしのほうだった。要は説得の依頼と、あわよくばわたしも引きずり込もうという話だったんだけど。

 難しいと思うな、今回は。

 本人にやる気がないからということを、わたしなりに伝えたつもりだ。でも、会長は諦める気がないらしい。そりゃ伝説の先輩直々のご推薦だもの。だからといって、その推薦がネックになってると言えるはずもなくて。

 実際の所、別にそれだけが理由で大亮に拘ってるわけでもないと思う。彼はそういう仕事の経験者だし、面倒くさがりではあるけど仕事はきっちりこなす。本性はお祭り好きでノリがいいから、向き不向きでいうなら断然向いてる人間だ。人選として間違っていない。だから若菜姉さんが太鼓判押すのも、会長がしつこく勧誘するのも理解(わか)るんだけど。

 そしてたった今、わたし自身もその勧誘を受けてきたところだ。

 返事は――保留してきた。わたしはそういう仕事が嫌いではないけど、進んでやりたいというほどやる気のある人間ではないから。今までだって、大亮のお目付け役という名目でやってきただけの話だ。行事ごとに彼と盛り上がるのが楽しかったから。

 ただ、それだけ。

 なのに。

「何であんなこと、きかれるんだろ」

「美夏?」

 思わずひとりごちたわたしの呟きに、かぶさるように声が聞こえた。聞き覚えのあるその声の主は、わたしの肩をぽんと叩いた。

「こんなところで、何突っ立ってんの?」

「紗耶」

そこにいたのは中学からの大亮と共通の友人、遠野紗耶(とおの・さや)だった。クラスこそ違うけど、頼りになる自慢の友達だ。彼女はわたしと生徒会室のプレートをしげしげと見比べて言った。

「何、大亮だけじゃなくてあんたも?」

「何で知ってるの?」

 やれやれといった様子で訊ねてくる紗耶に、わたしはきょとんとして問い返した。彼女は器用にまとめたヘアスタイルを崩さないように、後れ毛をいじりながら答えてくれる。

「昨日、ウチのクラスの前で雄太くんに愚痴ってたの見たのよ」

 そういえば、大亮の一番の悪友くんは紗耶と同じクラスだっけ。おおらかな性格の彼のことだ。きっと苦笑混じりに、大亮の肩を叩いていたんだろう。想像して、何となく溜息をついた。

「浮かないカオね」

「んー」

 紗耶が歩きだすよう、わたしを促した。行き先は学食。わたしはゆっくりとかぶりを振って、それについていく。

 学食は生徒会室の隣にある。放課後も大分過ぎた時間帯で、人影はまばらだ。窓際の席に座った女生徒たちが何やらコソコソと話しながら、サッカー部の練習を眺めている。目当ての人がいるんだろうな。誰がカッコいいとか何とか、そういう話で長時間盛り上がれる女のコのパワーは本当に凄いと思う。だけどわたしはあんまり興味ない。そういう付き合いより、幼なじみと一緒にいるほうが気楽だったから。

 だから、ああいうことをきかれるんだろうか。

 さっき会長との別れ際、きかれた言葉がよみがえってきて。

 わたしはもう一度溜息をついた。


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