意気地無しの憂鬱 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ 女の子というものは何というか――いつでも元気だよなぁと、被服室の中をこっそり覗き込みながら、現調理部部長の近江大和(おうみ・やまと)は思った。 中では愛らしい二人の少女がきゃいきゃい言いながら、ミシンに向き合っている。 「……あっ!」 「またやったのー?」 「『また』って言わないでよ! 勇樹(ゆき)のバカー!」 「バカの意味が分かんないし……っていうか、実琴(みこと)ちゃんのやり方が大雑把だから失敗するんでしょ? ちゃんと確認してからやりなさいよ」 「うう……」 実琴、と呼ばれた少女は悔しげに唇を噛みながら片手に糸切りを、片手に布を持って手元で作業をし始めた。どうやら縫う位置だか、向きだかを間違えたらしい。 (不器用ってのとは違うんだよなぁ) 元が大雑把な性格をしているせいなのだろう。部の後輩である彼女――大澤実琴には、どうにもツメが甘いところがある。部活動においても、そうだ。材料の計量を目分量でやったり(製菓のときは特に命取りだ)、味覚音痴というわけじゃないのに(ましてコックの娘だというのに)要所での味見を怠るから、出来上がったものが大味になったりする。 それが微笑ましいと思えてしまう辺り、自分が相当彼女を気に入ってるということなのだろうけど。 少し気恥ずかしくなって、大和はぽりと頬を掻いた。そしてその思いをごまかすように、彼はもう1人の少女に目を向ける。 実琴から『勇樹』と呼ばれたその少女は、友人のことを気にする様子もなく、自分の作業に没頭していた。神原(かんばら)勇樹――実琴と同級で、同じ調理部部員。つまり彼女も自分の後輩だ。今年の新入生の中でもピカイチの容貌を持つ彼女は、それ故にいらないトラブルに巻き込まれることが多かったらしく――極端な『男嫌い』として、校内では有名である。 ただ大和に対しては部の先輩であるのと同時に、親友の実琴が懐いていることもあって、その態度もすぐに軟化した。まぁ、これはいつの間にか全校生徒公認となった先輩彼氏の影響かもしれないが。 (上手くいってて羨ましい限りだなー) 自分の現状を思い浮べて、こっそりため息をつく。仲良くなるのは持ち前の性格のおかげで何とかなったが、その先になかなか進めない。次の一歩が踏み出せない辺り、思っていたより自分は女々しい人間なのかもしれない。 もう一度、大和は深々とため息をついた。と同時に掛けられた、声。 「近江くん?」 「っ! ……咲岡さん」 驚かさないでよ、と背後を振り返って肩を落とした。振り向いた先にいたのは現生徒会役員の一人にして、大和がクラスでよくつるんでいる少年の幼なじみ・咲岡美夏だった。彼女は両手にマグカップを持って、怪訝そうに首を傾げている。 |