珈琲中毒 1
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 県内でもそこそこ有名な進学校――神代学院高校では初秋に、文化祭と体育祭が連日催される。全部で三日間――はじめの二日間は文化祭、最後の一日は体育祭と後夜祭が行われる。

 進学校という看板を掲げているわりに、この学校は行事の数が多いと評判だ。いわゆる『お祭りごと』と言われる行事が。そして、その準備の裏方の裏方の――誰もやりたがらない仕事を請け負うのが生徒会。あくまで生徒の自主性を重んじている学校側も、その仕事を生徒会に一任している。だから本来ならば教師陣がやるような面倒な仕事も、生徒会がこなさなければならなくなるわけで。

(うあー……)

 眠い。そう胸中で呻いて、咲岡美夏(さきおか・みなつ)は立ち上がった。手には愛用のマグカップを携えている。

 役員各々が自分の仕事に没頭している生徒会室。その静けさの中を、美夏はサンダル――この学校は土足で出入り可能で上履きがない。なので、ほとんどの生徒が購買部で売っているソレを使用しているのだ――の足音をぱたぱたとさせながら、部屋の隅に備え付けられたコーヒーメーカーに向かった。これは何代か前の会長が持ち込んだものらしく、そのまま生徒会に寄付されたものだ。長時間、この部屋に缶詰めにされることが常の役員たちに、今も大変重宝されている。

 美夏はぼんやりとした表情でそれを手に取ると、自分のカップいっぱいに注ぎ入れる。ミルクも砂糖も入れない。そのまま、ゆっくり踵を返すと何故かしかめっ面の少年と目が合った。

 彼――日野雄太(ひの・ゆうた)はパソコン操作で疲れたのだろう、眉間を揉みほぐしながら、呆れたように口を開く。

「がぶ飲みすんなよ。胃に悪いぞ」

「だって眠いんだもん」

 少しばかり唇を尖らせて、応じた。駄々っ子のような口調に、彼はやれやれと肩を竦める。すると、その隣の席からも声が飛んできた。

「しかもブラックだって。信じらんない」

 嫌そうに顔をしかめてそう言ったのは、遠野紗耶(とおの・さや)――彼女はコーヒーを飲めないから、余計に美夏の嗜好が『信じられない』のだろう。いつもだったら苦笑いして受け流すところだが、何となくムッとする。

「眠気覚ましなんだから、別にいいでしょー」

 普段であれば自分もミルクや砂糖を入れるところだが、今はそんなことを言ってられない。押し寄せる睡魔に打ち勝つためには、この苦味が必要なのだ。美夏はそう言い返し、カップに口を付けようとした――そのとき。



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