空の星と街の灯と 1
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 まさかホントに誘われるとは思わなかった。

 寒風吹きすさぶ、とまではいかないけど。それなりに冷たい風が頬を撫でる冬の夜。

 しかもタダの夜でなく、クリスマスイブの夜。

 わたし――大澤実琴(おおさわ・みこと)は腰にカイロを貼って、コート・マフラー・手袋・帽子という完全防寒態勢を整えてコンビニの前に立っていた。とにかく暖かくするのを優先に考えて厚着してきたので、おしゃれも何もあったもんじゃないが、一応男のヒトと待ち合わせをしている。

 とはいえ、相手は部活の先輩で、お世話にはなっているけど色恋とは無縁なタイプの人。だから、そんな気負う必要はない。――ないんだけど。

「久しぶりだな、誰かと一緒って」

 ひとりごちて、笑みをこぼした。ポケットを探ってケータイを取り出す。

 開かれた画面にあるのは、そのヒトからのメール。


 送信者:ヤマト先輩
 件名:メリークリスマス!
 本文:自信作ができました!ぜひ試食をお願いしたいので8時に駅前のコンビニに来て下さい。あと、あったかくして来てね


 そして今は、指定時刻の五分前。すっかり着ぶくれたわたしは視線を左右に巡らせながら、先輩がくるのを待っていた。

 クリスマスイブに誰かと一緒にいるのは何年ぶりだろう。自宅がイタリアンレストランを経営してるわたしの家には、昔から家族全員で過ごすという習慣がなかった。それはそうだ。この時期は、いちばんのかき入れ時だもん。店のマスターである父は毎年このために、とっておきのコース料理を考えている。そしてその料理で、お客様を幸せな気持ちにする。それはとても誇らしいし、素敵なことだけど。でも、やっぱり寂しいと心の何処かで感じてた。

 それでも、まだ小さいときはよかったんだ。母と兄と三人で過ごせていたから。だけど母が亡くなって、兄が成人して店を手伝うようになって――わたしは毎年、この夜は一人で過ごすのが当たり前になった。別にクリスマスに限らず、一年中そうなんだけどね。ただ昼間、友達と騒いでたから余計に物悲しい気分になってしまって。

 まして彼氏なんていう存在がいるわけじゃない。

 友達とのパーティーからの帰り道、帰っても誰もいない暗い部屋を思って、何度もため息をついていた。そんなときに、さっきのメールが届いたのだ。

 多分、気にしてくれてたんだろうな。

 パチンとケータイを閉じながら、わたしは半月くらい前にした先輩との会話を思い出していた。


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