falsao 9 しおりを挟むしおりから読む目次へ ――ちょっとした、拷問なんじゃないだろうか。 自室の机の上で小さく丸まっているうさぎの姿を思い出して、勇樹はこっそりため息をついた。何というか、もうどうしようもない。 こんなふうに、まさか自分が恋愛事で深みに嵌まることがあるなんて、思いもしなかった。仲の良い友人たちのことならともかく、自身に関わるその手の事柄はかなり冷めた目で見ていたのだから、それも仕方がないとは思うけれど。 それでもプレゼントをされたり、気安く触れられたり。そんなことで死ぬほど嬉しくなったり、泣きたくなるほど絶望したりするなんて。 (……ダメだなあ) 本当は忘れたほうがいいに決まってる。自分と彼の間にあるのは、いつまで待っても出口になんて辿り着けない、でも確実に終わってしまうような関係性なのだ。そんな中でこの気持ちを育んだところで、報われることなどありはしないのに。 それでも勇樹は美晴から離れられない。不毛だと知っていても、美晴に『もう終わり』と言われるまでは付き合うつもりでいる。それは結局のところ、彼のことが好きだから、で。 (――ばかみたい) そうやって何度も自分を罵倒してみたけれど、一度認めてしまった気持ちは簡単には変わってくれない。もっとも、そんな簡単に決着がつくようなものであればハナから悩みなどしないのだが。 「あーあ」 声に出して、嘆く。――と背後から、出し抜けによく聞き知った声が掛かった。 「どうしたの?」 「――っ」 びくりと肩を揺らして振り返れば、そこにはクラスメイトで親友でもある実琴が立っていて。 「驚きすぎ」 ここが教室の中だったことをすっかり忘れていた勇樹を見て、実琴がおかしそうに笑った。勇樹はそれに乾いた笑みだけを返す。実琴がさっきの勇樹の声を、このまま流してくれることを期待して。だが妙な所で勘を働かせたらしい親友は、勇樹の立つ窓際までやって来ると、再び問い直してきた。 「で、どうしたの?」 「――別に」 思ったより素っ気ない声が出てしまい、相手を不快にさせたかと一瞬ひやりとした。しかし、それは杞憂だったようだ。 「何か、いかにもお悩み中ですってカオしてたからさ」 何でもないならいいけどね――歌うように言って、実琴はまた笑った。窓の外、秋らしい高く澄んだ空を見上げる横顔に特に含んだような所は見当たらない。無理矢理深入りしてこない、彼女のこういう所が勇樹は好きだった。内心でほっと息をつき、時計を見上げた。昼休みの終了まであと十分。まだ余裕はある。 |