無自覚症候群 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「あれ、大亮」 夕陽が差し込むホール前のスペース。そこのソファーで、俺は寝そべっていた。放課後で人もいないから、特別咎められることもない。時々通りかかる人にはぎょっとされるが、まあそれだけだ。 何をしていたわけじゃない。色々と考えてみたり、ぼーっとしてみたり。そうしてるうちに時間が経って、気がついたら全身に夕陽を浴びていた。 そんな俺に声をかけてきたのは。 「……よお」 「何してるの、こんなトコで」 そこに立っていたのは美夏だった。さらりとした黒髪を揺らして、首を傾げている。手には何冊かの本を抱えているから、図書室の帰りだろう。 「あー……昼寝?」 「質問で返さないでよ」 呆れたように言うと、美夏は俺の隣に座った。俺はゆっくり体を起こす。 美夏は俺を見ていなかった。手元の本を所在なさげにいじっている。 変なカンジがする。 こんな感じは今までコイツといて、感じたことがない。妙な居心地の悪さ。何だろう? ぼんやりとそんなことを考えていると、美夏が口を開いた。 「今日は放課後の呼び出しなかったの?」 当然、生徒会の話だろう。俺は首を左右に振ることだけで、否定した。 実際、今日は昼休みに教室に押し掛けてきただけで他は何もなかった。だから俺はさっさと帰っても良かったんだが。 「どうしたの?」 黙り込んだままの俺を心配したのか、美夏は視線をちゃんとこちらに向けてくる。けれど、いつものような覇気がない。まるで手探りで、俺に向かい合おうとしてるみたいだ。 「会長に、コクられたって?」 この雰囲気を振り払いたくて、俺は軽い調子で訊ねた。美夏は眉をひそめる。 「誰に聞いたの」 「雄太」 俺がそう答えると、美夏は疲れたように大きく息をついた。 「てことは、紗耶ね」 そうだろうな。あの二人、俺らとは別な所で仲がいいみたいだから。 「で、どうしたんだ?」 「断ったけど」 だって本気じゃなかったし。ぼそっと美夏は言った。 本気だったら、どうしたんだろうな。 ふと、そんな疑問が頭をもたげた。でも口にはしない。そういう話をするのは、違う気がする。俺とコイツの間では。 |