無自覚症候群 1
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 秋の日暮れはあっという間だ。

 すっかり暗くなった帰り道で俺は思う。まぁ、体育祭やら文化祭やらの秋行事が終わってしまったこの時期は、秋というより冬に近い気候だろう。冬至に向かってまっしぐら、日はどんどん短くなるばかりだ。

 そんな中、俺は黙々と歩みを進める。学校から自宅までは徒歩圏内。さしたる時間がかかるわけではないが、それでも自然と歩く速度は早まってしまう。理由は寒さと空腹だ。

 普段であればもっと早い時間に帰っているはずだった。俺は部活に入ってないし、先日まで放課後を占めていた文化祭関係の委員会も行事の終了とともに解散したし。晴れて自由の身になったはずだったのだが。

「――めんどくせーなあ」

 帰宅予定を大幅に遅らせてくれた諸悪の根源を思い出して、ひとりごちる。あの調子だと、こちらがOKを出すまで放課後は拘束されるにちがいない。

 ホントにめんどくさい。

 すっかり憂鬱な気分になって、俺は深く溜息をついた。



*  *  *



「ただいま」

 そこはかとなく暗い空気を引きずったまま、俺は玄関のドアを開けた。だけど迎えてくれる声はない。代わりに聞こえてくるのは、耳慣れた若い女二人分の笑い声だった。

 ――はて。

 何であいつが此処にいる?

 俺は首を傾げつつ、声の発生源であるリビングへと足を向けた。

「あらお帰り、大亮」

「おじゃましてるよー」

 明るいリビングから一際明るい声で俺を迎えたのは、予想通りの人物だった。

 一人は俺、武村大亮(たけむら・だいすけ)の実姉である武村若菜(わかな)。

 そしてもう一人は、俺とは十年以上の腐れ縁、いわゆる幼なじみの咲岡美夏(さきおか・みなつ)。

 二人とも夕食も入浴も済ませたのだろう。テーブルの上にスナック菓子の袋を広げ、手にはそれぞれマグカップを持ってすっかり寛いでいる。が、ちょっと待て。

「何で美夏がこんな時間にウチにいるんだ?」

 パジャマ姿の美夏を指差して、姉貴に訊ねた。その問いに姉貴はきょとんとして、逆に聞き返してくる。

「あれ、聞いてない?」

「何を?」

 空腹諸々のせいで俺の機嫌は下降気味だ。返す言葉も自然、むすっとしたものになる。ブレザーを脱ぐのもそこそこに、テーブルの上のスナック菓子に手をつけた。向かい側から美夏が咎めるような視線をとばしてくるが、しれっとしてやり過ごす。



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