無自覚症候群 4
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 まったく難儀な話だと思う。

 俺は青空の下、パックの牛乳を飲みながら昨日の紗耶のことを思い出していた。

 なまじ頭が良くて他人の気持ちに聡いもんだから、ああやって身動きが取れなくなっちまう。ホント難儀な奴だよ。

 晩秋にしては、今日は暖かい。いつもだったら昼休みは教室か学食で時間をつぶしている俺だが、何となく思い立って外に出てみた。そしたら何故か。

「……何やってんだ、大亮」

「隠れてんだよ」

 グラウンドの水飲み場の陰にしゃがみこんでいる大亮――諸悪の根源ともいえる――を見つけてしまった。かくれんぼの相手は、十中八九で生徒会だろう。

「お前も隠れろ。目立つ」

「へえへえ」

 大亮の要望に俺はとりあえず応じてやった。ヤツと同じように、水道の陰にしゃがみこむ。そして何とはなしに、大亮の顔を眺めていた。

「……何、睨んでるんだよ」

 自慢じゃないが、俺の目つきはあまり褒められたものではない。なので大亮が後退りたくなる気持ちもわからんでもないんだが。

「別に」

 今回ばかりは宥めてやる気はまったくなく、俺はすげなく返事をした。

 見上げれば、やっぱり空は青い。いっそ恨めしいほど爽やかだ。爽快だ。昨夜(ゆうべ)の俺と紗耶のやり取りなんざ、知ったこっちゃないんだろう。この空模様は。

「お前さ、何で逃げてるんだ?」

「あ?」

 空を見てても不愉快になるだけなので、俺は大亮に矛先を向けることにした。ヤツはパック飲料のストローをくわえたまま、こっちを見る。

「面倒だから」

 ああ、そうかい。

 何だってコレがいいかねえ。

 当人には余計なお世話と一蹴されそうなので黙っておく。別に俺は大亮を嫌っているわけではないし、紗耶や美夏に惚れてるわけでもない。というか、コイツらを見てると面倒臭いという思いが先にたって恋愛する気がなくなるし。

 確かに大亮はいいヤツだと思う。今こうしてしつこく生徒会に追われているのだって、『面倒くさがりだがやる時はやる』っていう所が認められているからなんだろうし。それは俺も評価してる。

 だがしかし。

「――毎度毎度、不毛なことで愚痴られてもなあ」

「あ?」

 思わずぼやいてしまった俺に、大亮が間の抜けた声を返す。あー、この暢気さは何とかならんかホント。

 昨日みたいに紗耶に呼び出されるのが、迷惑という訳じゃない。いわゆる美人の女友達だ。頼られて悪い気はしない。しかし諸悪の根源である大亮はこの調子だし、美夏は美夏でなあ。紗耶の話では、ウチの学校のイケメンランキング上位入賞者の沢渡(さわたり)会長にコクられても、あっさり断ったらしいが。冗談と丸分かりの告白も何の躊躇もなく突っぱねる辺り、結構曲者なんだと俺は思う。

 紗耶は色恋ということに拘っていたが、俺からすれば美夏の大亮に対する気持ちってのはアレだ。男女間の云々ってのより『大亮』っていう生き物が好きなんだろう、そんな感じがする。美夏の大亮に対する気持ちは、良くも悪くもキレイ過ぎる。悪いことじゃないが、恋愛ってのはキレイごとだけで済む問題ではないだろ。そこには色んな欲が絡んでくるワケで……特に男ってのは、その辺が女より顕著だと思うし。

 手を出したくても出しづらい、そういう雰囲気が美夏にはあるんだ。イロコイゴトのゴタゴタに巻き込んではいけないような。

 俺は大きくため息をつくと、隣の大亮に視線をやった。その表情からは何も読み取れない。だから俺は疑問に思ってたことを、そのまま口にした。




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