falsao 5
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 ――本当に騙したかった人は、誰?



「んー……」

 小さく唸って、手元の本を閉じる。いまいちだ。勇樹は眉を寄せた表情で、目の前にそびえ立つ書架を見上げた。視線を何度か左右に往復させて、ひとつため息をつく。

「……やっぱり、ない」

 ごく小さな声で呟いて、ぐるりと周囲を見回した。目につくものは自分より遥かに背の高い書架の列と、そこに整然と並べられた本の数々。中学校にあったものとは比べ物にならないほどの蔵書量を誇るこの場所は、神代学院高校の図書室――否、規模から言えば『図書館』だ。

 先日の球技大会を終えて、学校は夏季休暇に入った。にもかかわらず、何故勇樹が登校しているのかと言えば、その理由は二つある。休み明けに催される文化祭の準備がそのひとつ。所属している調理部はクレープの屋台を出店することが決まっており、熱心な部長を中心に今から準備に余念がない。

 そしてもうひとつは、長期休暇中に学校で行われる自由参加の補講のためだ。進学校の肩書きを持つ神代学院の補講は下手な予備校より定評がある。そのため、ほとんどの生徒たちがこの補講に参加しており、勇樹もその内の一人だった。

 今日の分の補講を午前中で終え、友人たちと軽い昼食を摂ったあと、勇樹はその足で学校の図書館へ向かった。学校側から唯一課題として出された読書感想文に使用する本を探すためだ。とはいえ、目当てのものは最初から決まっていたので、それほど時間は掛からないだろうと思っていたのだが。

「……どうしようかなあ」

 色とりどりの背表紙を眺めて思案する。目的にしていた本はどうやら貸出中らしく、見当たらなかった。それじゃあ代わりにと他の本を手に取ってはみたが、どれもいまいちしっくり来ない。

 仕方ない。少し遠いが市立の図書館まで足を伸ばそうか――そう思って、窓の外に目をやった。突き刺すような日差しが目に痛い。いくらバスに乗って行くつもりだとはいえ、炎天下の陽気のさなか、外に出るのはあまり気が進まない。書店で購入するのであれば駅ビルまでで済むから、いくらかマシなのだが――学校の課題のために散財するのは少し惜しいような気もする。どうしたものかと、勇樹はこっそり肩を落とした。そのときだ。

「……神原さん?」

 聞き慣れた声に呼ばれて振り向いた。書架と書架の間に立つ勇樹を覗き込むようにして見ている人の姿が目に入る。それが見知った人だったことに何となくほっとして、勇樹は口を開いた。



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