falsao 3
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 ――梅雨はキライだ。

 教室の窓側の席で頬杖をつきながら、勇樹はつくづくと思った。元々癖のある髪は湿気のせいで纏まらないし、少し動けば蒸すくせに、じっとしていると肌寒い。とても快適とは言いがたい気候に、舌打ちのひとつでも鳴らしてやりたい気分だった。

 窓側の後列のこの席は、入学してから最初の席替えで引き当てた特等席で、教室の真ん中最前列を引いてしまった実琴からは散々羨ましがられた。教師陣の目に留まりにくいのか、少しぐらいなら内職していてもバレないで済むわけだから、確かに実琴の席よりは過ごしやすいとは思う。とはいえ、元が真面目な性格なので余程のことがない限り、勇樹が授業中に余所事に没頭することはないのだが。

 せめて、もう少し陽気のいい時季に当たってくれれば良かったのにと思う。外から吹く風や晴れ渡った青空、それから陽の光の暖かさ――そういうものを感じられたら、今の、この鬱々とした気分も少しは上昇するだろうに。どんよりとした雨雲を見ているだけじゃ、余計に気分が落ち込むばかりじゃないか。勇樹は緩くかぶりを振って、ため息をついた。そのときだ。

「神原さん」

 不本意ながら、ここ最近ですっかり耳に馴染んでしまった声が勇樹を呼んだ。勇樹はゆっくりと顔を動かし、視線を教室の後ろのドアに向ける。

「待たせて悪かったね。行こうか?」

 そう言って、にこりと笑う声の主――現在『偽彼氏』である人物の姿を認めて、勇樹は顔をしかめた。本当に、ごくわずかに。そして、一瞬の内にその表情を消し去って、静かに立ち上がる。

 放課後の教室に、他のクラスメイトの姿は既にない。皆、部活に行ったか、そうでなければとっくに家路についている――そんな時間だ。週二回が活動日である調理部員の勇樹がこの時間帯まで、その日でもないのに学校に居残っていたのは、入口で柔らかい笑みを浮かべている男との『恒例行事』のためだ。

(……何だかなあ、もう)

 内心でため息をついて勇樹は鞄を手に取ると、少し早足で自分を迎えに来た男――龍堂美晴の元へと向かった。



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