無自覚症候群 3
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 学校前のバス停に人影はない。まだ部活動の終了時間には早いし、部活のない生徒たちはとうに下校してしまってるし。実に中途半端な時間だ。

 一緒に帰ろうという美夏を適当な言い訳で先に帰してから、あたしは何とはなしに此処でぼーっとしていた。日もすっかり沈んでしまったし、お腹も空いた。あと寒いし。こういうときスカートを短くしていることが悔やまれる。

 ――まだ、終わらないか。

 人一倍練習熱心な彼のことだ。もう暫くはかかるだろう。

 あたしは短く息をついて、鞄の中から携帯を取り出した。パチンと音をたてて開き、素早くメールを打つ。

『駅ビルの本屋。来なかったら数学の課題、もう見せないからね』

 微かな笑みとともにメールを打ち終え、送信した。

 同じように音をたてて携帯を閉じる。道路に目を向けると、バスがライトを照らしながらやって来るのが見えた。ほぼ定刻通りだ。

 あたしは勢いをつけて立ち上がり、バスが止まるのを待った。



*  *  *



 女性誌のコーナーで、立ち読み三冊目を手に取ったところで、わしっと頭を掴まれた。

 髪型崩れたらどうしてくれるのよ。

 むかっとした内心を隠しもせずに面に出して、あたしは頭上の手の主を見上げた。手の持ち主は非常に不機嫌な声で、あたしの名を呼ぶ。

「紗耶」

「何? 雄太くん」

 彼――日野雄太(ひの・ゆうた)は強面と評判の顔を険しくさせて、あたしに苦情を呈した。

「ヒトを呼び出すなら、せめてどっちの本屋か指定しとけ。おかげで捜し回るはめになったろうが」

 学校の最寄り駅には二つのビルが隣接してる。そのそれぞれに、本屋は存在しているのだ。それも、そこそこ広い本屋が。

「どっちも行こうと思ってたから」

 あたしはしれっとして言い返す。雄太くんは更に渋い顔をして、あたしの頭から手を離した。

「お前の気まぐれに俺を巻き込むな」

「愛がないわねー」

「いつそんな関係になった」

「覚えないわね、確かに」

 手にした雑誌を静かに戻す。そしてこのフロアから降りるべく、エスカレーターへ歩き出した。彼は黙ってついてくる。

 暫し無言で歩き続けてエスカレーターに一歩踏み出したとき、あたしは再び口を開いた。

「連絡くれれば良かったんじゃないの?」

 足元を確かめてから、雄太くんを振り返る。そこにはますます渋い表情をした彼の姿。

 あー。もともと怖いカオしてるんだから、やめなさいって。

 内心でそう思っていると、彼は何やら物言いたげに口を動かした。あたしは首を傾げ、再び自分の足元に目をやった。

 ちょうど次のフロアに着いて何歩か踏み出したところで、ぼそっと彼が呟いたのが聞こえた。

「電池が切れたんだよ」

 ……それはそれは。

「あたしのせいじゃないわよね」

「やかましい」

 売り場を横切って歩くあたしの隣に、雄太くんが並んだ。




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