パラレル幻想譚 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「お前なぁ!」 「予告しただろ?」 拳を握ったユウタの訴えに、悪怯れた様子もなくダイスケは応じる。ユウタはカチンときて、更に言い募ろうと口を開く。――が、それはサヤの放った魔法にあっさり掻き消されてしまった。 「火界を制す焔竜、全てを浄めし息吹を以て我に仇なす輩を滅せよ」 かざした杖から放射状に炎が広がる。それは地に落ちた魔物はもちろん、まだ宙にいたものも絡めとって焼き尽くす。 そして炎が消えて、あとには炭化した魔物が残された。 「これで、おしまいっと」 額に浮いた汗を拭ってサヤが杖を下ろした。ユウタは口許の布を取って、大きく息をつく。そこに、ぱたぱたと走り寄って来る気配。 「ユウタくん、怪我は?」 「あー、大丈夫」 法衣の裾を翻してやって来たミナツに、ユウタは立ち上がりながら応じた。ゆっくり剣を収めると、今度は肩を叩かれる。 「お疲れ」 「おー……」 にこやかに笑いかけてきたダイスケに、ユウタは疲れた表情を向ける。そして唸った。 「お前なぁ、いきなりアレはないだろうがよ」 「アレって?」 「アレはアレだ! 避けるのが遅れたら、俺の頭まで吹っ飛んでただろうが!」 「いや、お前なら避けられるって俺は信じてたから」 「そんな無責任な信頼はいらねぇ……!」 がっくりと肩を落とす。すると離れた場所から、追い討ちをかける声がした。 「いいじゃないの、みんな無事だったんだし」 「真っ先に戦線離脱したヤツの言う科白かよ……」 あくまで気楽なサヤの言葉に、ユウタは冷たい視線を向けた。だが、彼女は堪えない。しれっとして、言い切る。 「だってわたし、ユウタくんより繊細だしー」 「……ソウデスネ」 言うだけ無駄だ。こういう言い合いで、彼女に勝てた試しはないのだから。そう思い、ユウタは深くため息をついた。 * * * そもそも何故、彼らが魔物と対峙するような状況になったのか。それは三日前に知り合いから引き受けた、ある依頼が発端だった。 「……俺たちが、ですか?」 いつも拠点にしている街の盗賊ギルド。そこにダイスケと共に呼び出されたユウタは、訝しげに訊ねた。目の前では、普段から親交のあるギルドの幹部――そして、ダイスケの兄弟子でもあるヨウイチが穏やかな笑みを浮かべている。 「そうだよ。是非、君たちにお願いしたい」 彼はそう首肯すると、卓上に広げた地図を示しながら、もう一度説明のために口を開く。 「この街から南西に二日ほど行った所に、深い森があるのは知っているだろう? 最近、その奥にある泉の周りで希少価値の高い薬草が発見されてね。それを採りに何人も薬師が森に入ったんだけど」 「全員襲われて、命からがら逃げてきたと」 ダイスケが面白くなさそうに、ヨウイチの言を引き継いだ。ヨウイチは神妙に頷く。 |