彼とイルカの相違点 4
しおりを挟むしおりから読む目次へ






 雄太は何とも言えない気持ちで、紗耶の頭を見つめていた。別に謝られるようなことは、何もない。自分が紗耶に構うのは、自分の意思だ。確かに彼女が身を置いてる状況を面倒だとは思うけど、その中に彼女を一人きりで放っておくほうが、雄太にとってはストレスになる。つまり、自分はイルカほど無条件に優しくなんかないわけで。

(全然、似てないっての)

 胸中で呟いて、小さくため息をついた。それから天を仰ぐ。

 夜空は晴れていたが、街灯に邪魔されて星はほとんど見えなかった。もっとも見えたところで、星に詳しくない自分が星座を見分けることなんて出来ないだろうが。とりわけ秋の星空は、他の季節に比べると地味だと言うし。

 そんなことを思いつつ、目線を下に戻せば、未だに紗耶が俯いたままでいた。何をどう言ってやれば、彼女は顔を上げてくれるのか。見当もつかない。

 もう一度、ため息をつきたくなるのを堪えて、雄太は右手を持ち上げた。その手を伸ばす先は、下を向いたままの彼女の頭。それを少し乱暴に掴み、整えられた髪をわしゃわしゃと掻き回す。

「な……っ!?」

 紗耶が目を剥いて、面を上げた。次いで聞こえるのは非難の声。

「何すんのよっ!?」

 乱れた髪を押さえつつ、紗耶は雄太から距離をとった。さっきまでの意気消沈した雰囲気はどこへやら。ムッとした表情で、こちらを睨みつけている。そのさまにほっとして、雄太はわざと意地悪気に言ってやった。

「お前がいつまでも辛気臭いカオしてるから、気合い入れてやったんだよ」

「それにしたって、こんなグシャグシャにすることないでしょっ!」

 綺麗にまとめられていた髪が、今は見るも無惨にほつれている。自分でやったとはいえ、少々やり過ぎてしまったかとも思うが――あのまま落ち込まれてるよりはずっとマシだ。怒りの勢いでいつもの調子を取り戻してくれるなら、そのほうがいいに決まってる。

 紗耶はどうにか髪を直そうと悪戦苦闘していたが――やがて、諦めたらしい。ヘアゴムやらピンやらを全て取り払って手櫛で髪を整えると、憮然としたまま歩き出した。

「帰る!」

「ハイハイ」

 普段はあまり見られない、子どもじみた紗耶の態度。それに雄太は苦笑して、彼女の後を追いかけた。家に着くまでに、機嫌が治るかどうか――少しばかり不安に思いながら。




『彼とイルカの相違点』終


- 64 -

[*前] | [次#]






「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -