珈琲中毒 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「そういうワケで、皆さんの分も用意してきますけど?」 「あたし、アイスミルクティー」 甘めのヤツね。と即答した紗耶に、美夏は軽く苦笑を返した。自分ほど表に出ていないが、彼女も疲れているらしい。 「雄太くんは?」 首を傾げて訊ねると彼は『悪いな』と言って、鷹揚な笑みを浮かべた。 「んじゃ、濃いめの緑茶で頼むわ」 「りょーかい」 美夏もまたにこやかに応じながら、大亮の机に置かれたままのカップに手を伸ばした。そこにかかる、彼の怪訝な声。 「俺には訊かないのかよ?」 「え、水道水でいいんでしょ?」 「お前なー……」 さっきまでのお返しとばかりに美夏が言うと、彼は顔をしかめて片手で頬杖をつく。そして、空いている手を投げやりに振った。 「あーもういいから、とっとと行ってこい」 「はーい」 どこか拗ねたような大亮の物言いに美夏は苦笑しつつ、くるりと身を翻した。 「それじゃ、行ってきまーす」 両手に2つずつカップを持って、美夏は入口に立つ。 『行ってらっしゃい』 送り出してくれる声は軽く、柔らかい。ちらりと見れば、皆真面目に仕事を再開しているところだった。 切り替えが早くて、有能で、少し意地が悪いけど頼りになる自慢の友人たち。 そんな彼らの居るこの場所は、とてもとても居心地が良くて。 (ずっと続けばいいのにな) 時折揺れる感情に波立つことなく、ずっとこのままバランスを保っていられたらいいのに。 (……忙しいのは、勘弁だけどね) 自らの願いを胸中で嘲笑って、少女は生徒会室を後にした。 ――さて、会長殿には何を飲ませましょうか? 『珈琲中毒』終 |