珈琲中毒 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「ハイ、没収〜」 「ああっ」 横からひょいとカップを奪われて、悲鳴じみた声をあげた。そして、自分からコーヒーを取っていった相手を睨む。 「大亮(だいすけ)!」 険のある声で咎めてみるが、相手はどこ吹く風。彼女の声など聞こえてないかのような飄々とした表情で、カップに口を付ける。美夏は眉を吊り上げた。 「わたしのコーヒーっ!」 「コーヒー一杯でガタガタ言うなっての」 「横取りするから怒ってるんでしょ!」 もう! と美夏は頬を膨らませると、まったく悪怯れた様子のない相手――武村(たけむら)大亮をねめつけた。 「何でもいいから返してよ。ホント飲まなきゃやってらんないんだから!」 「どこのアル中患者の科白だよ」 大亮もまた呆れた声で言い放ち、ひょいと肩を竦めた。そして自分の席に戻り、口を開く。 「大体、お前がブラック飲み始めるとロクなことになんないんだよ」 「……何で」 未だに未練がある様子で大亮の手元のカップを見つめ、美夏は手近な椅子に腰掛けた。恨めしげに自分を見てくる彼女に、大亮は嘆息する。そして。 「お前なぁ……」 口元を軽く引くつかせながら、彼は言った。 「そうやってコーヒーがぶ飲みして、胃を壊して、挙句にメシ食えなくなってぶっ倒れたことを忘れたか」 一度や二度じゃないだろうに。 そう言われて、美夏は言葉に詰まった。見れば雄太と紗耶も、大亮同様『うんうん』と頷いている。 「大体、お前が怒りっぽくなった時点で疲れてる証拠だろ」 「子どもみたいに駄々こね始めたら、赤信号ってね」 代わる代わるに指摘され、いよいよ美夏は撃沈する。確かに四人でつるんでいた中学生の頃から、そうだった。忙しくなると睡眠時間が削られて、ついイライラしてしまうのだ。普段の性格が穏やかなものだから、その変化は三人に比べると非常に顕著で。 大亮と雄太は男で運動部だったこともあり、体力がある。そして紗耶も徹夜に強い体質らしく、疲労した様子があまり見られない。つまり、この中で現在へばっているのは自分だけということだ。 ひどく恨めしい思いで、美夏は大亮を見た。大亮はニヤニヤと意地悪く嗤っている。 |