空の星と街の灯と 2
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「クリスマス、嫌いなんです」

 それは思わずもらしてしまった本音だった。思ったより冷たく響いた自分の科白にびっくりしながら、おそるおそる目の前に座っている人――近江大和(おうみ・やまと)先輩に視線を向ける。

 案の定というか何というか、先輩は驚いたように目を見開いてわたしを見ていた。しかしすぐさま気を取り直して、ニッコリと笑ってみせる。

「そっかー」

「そうです」

 次いで流れたのは沈黙のみ。わたしは何となく気まずい思いで、先輩に問いかける。

「何でとか、訊(き)かないんですか」

「あー、うん」

 その問いに、先輩は自分の頬をぽりぽりと掻く。そしてぐるぐると視線を彷徨わせてから、口を開いた。

「俺もあんまり好きじゃないから、さ」

「そうなんですか?」

 意外な答えを聞いて、わたしはきょとんとしてしまう。

「先輩だったらここぞとばかりに、ご馳走作ってそうですけど」

 何せ調理師志望の調理部部長だ。張り切って色々とやってそうなのに。

 わたしの疑問に苦笑い、先輩が口を開いた。

「食べてくれる人がいないと、作りがいがないから」

 ああ、確かに。妙に納得して、わたしはその言葉に頷いた。そして以前、何かの拍子に彼から直接聞いた話を思い出す。

 曰く、父子家庭なのだと。

 そう聞いたのは、五月晴れの空が眩しかったある日のことだった。それまでは同じ部にいてもあまり話したことがなかった彼に、あっという間に懐いてしまったのはそんな共通点があったからかもしれない。

 早くに帰っても一人で過ごす時間が長くなるだけだからと、わたしは活動日でなくてもしょっちゅう調理室に顔を出していた。そんなとき、そこにいるのは大抵、大和先輩で。

 先輩はわたしがレストランの娘だと知ってから、父や兄の仕事の話をよく聞きたがった。目指すモノのある人の目っていうのは輝いていて、力強い。だからわたしはそれに惹かれて、知っていることを話してあげた。そうすると、彼の力はさらに増すんだ。

 わたしはそれが嬉しくて――ほんの少し羨ましくて、どんな話も興味深い表情で聞いてくれる先輩の顔を見るために、足繁く調理室に通っていた。

 そのうち彼は『お礼だ』と言って、わたしに試作品の料理を食べさせてくれるようになった。ほとんどがお菓子で、試作品というからにはイマイチなものもあるんだけど。味見させてもらって感想を言って(これでもシェフの娘だ。舌は肥えている部類だと思う)、それに先輩が喜んだり奮起したりして。いつの間にか、そんなやり取りが定着していったのだ。

 そんな中、たまたまクリスマスの話題が出てきて、わたしが口にしたのがさっきの科白だったのだけど。



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