無自覚症候群 1
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 すると、姉貴がのほほんとした口調で俺の質問に答えた。

「お母さん、今日から一泊で温泉旅行って言ってたんだけど」

 ああ、そういやそんなこと言ってたっけな。町内会の役員の慰安旅行だとか。それが美夏とどう関係してるのか。俺の疑問を正しく理解している様子の姉貴は、そのまま説明を続ける。

「先生方も一緒に行かれたのよ。そしたら美夏ちゃん、家に一人で無用心でしょう?」

「あー、なるほど」

 美夏は現在、合気道道場の師範であるじーさん・ばーさんと三人で暮らしている。因みに姉貴は美夏のトコの道場に小さい頃から通っていて、だから『先生方』と呼んでいるわけだが。

 そりゃ確かに無用心だ。

 そう思って美夏を見やると、ヤツもこちらを見ているところだった。そしてちょこんと頭を下げてくる。

「そういうワケでお世話になってます」

「学校で何も言わなかったじゃねえか」

「言おうと思ってたら休み時間も放課後も、生徒会に呼び出されていなかったんじゃない」

「……ソーデシタネ」

 どこか拗ねたような美夏の科白に、俺は白々しく舌を出した。そして諸悪の根源である生徒会のことを思い出し、姉貴を見る。そして問うた。

「若菜さんや」

「なあに、大亮くん?」

「お前、今の生徒会のヒト達に何を吹き込んだんだ?」

「べつにー。……夕飯、温め直してくるわねー」

 姉貴は俺の質問には答えず、鼻歌を歌いながらキッチンへ姿を消した。

「やりやがったな……」

「何の話?」

 俺が忌々しげに姉貴が去ったほうを見ていると、美夏が上目遣いで尋ねてきた。視線の高さを合わせるため、俺はその場に腰をおろす。それから、端的に答えてやった。

「生徒会」

「……ああ。そういうこと」

 しばしの間を置き理解したのか、美夏は深く頷くと今度は労るような視線を向けてきた。



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