真昼の星座 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「山倉サン」 「ごめん。中、入って待ってくれる?」 こちらをちらりとも見ずに彼女――山倉明日香(やまくら・あすか)は応じた。 いや、お前絶対悪いと思ってないだろ。 そうは思ったが口には出さず、俺は若干うなだれながら奥へ向かった。そして機材のすぐ前の座席に手をかけて、山倉の手元を覗き込む。 「何やってんの」 「修理」 実に端的に受け答えをすると、山倉はやっと俺を見た。俺と同じ歳のわりに、やや幼い顔立ちをしているのは大きめの目のせいだろう。それをぱちぱちとさせながら、彼女はぼやく。 「星がつかなくなっちゃって」 「だから真っ暗だったのか」 俺が納得して言うと、山倉は小さく頷いて今度は床に座り込んで何やら点検をし始めた。よって俺からは彼女の色素の薄い頭しか見えなくなる。 「何でお前が直してんの」 「一年に泣きつかれた」 少しくぐもった声が聞こえてくる。 何でも新入部員がはじめてやるプラネタリウム公演の練習をしていたときに、突然星がつかなくなったらしい。――そりゃ泣きたくもなるわな。納得しつつ、それでも疑問に思ったことは口に出す。 「ていうか、その当事者たちは?」 「直してあげる代わりに、プリンを買いに行かせたの」 訊くと、美味いことで有名な店の名前が返ってきた。てことは、駅ビルまで行かされてるってことだ。 当然奢らなければならないのに、バス代を払ってまで行ったのか。学校は高台にあり、駅ビルはその遥か下にある。徒歩で行き来するんだったら、帰りはひたすら坂を上らなければならないわけで。 どっちにしろ。 「不憫だな」 「顧問に怒られるよりマシでしょ」 思わず口をついて出た俺の呟きに、山倉はさらりと言い切った。 まあ、確かに。 「で、直せるのか」 「うん」 やはり俺のほうを見ることなく、彼女は答えた。 悪い癖だよな。 俺は山倉に気付かれないように、そっと嘆息した。 人と目を合わせない。それが山倉の悪い癖だ。だから愛想がないように思われて、結構損をしているタイプだと思う。いや、実際性格は冷めてるから大きく誤解されてるわけではないんだけど。 だけど――ホントは他人のことをよく気に掛けてる、よく見てる奴なんだ。 俺は屈みこんだままの彼女を眺めながら、こいつとはじめて会話らしい会話をした日のことを思い出した。 * * * |